「あきらめない」

  • すすむ
    2007年07月23日 15:49 visibility102
 「あきらめる」という言葉は徳高野球部の頭にはなかった。


 試合開始を告げるサイレンが鳴ってまもなく、対戦校下松高校に2ランホームランが飛び出し、その後もエラーで1点を追加。


 すぐさま徳高も2点を返すが、その後はお互いランナーをためても、大量得点にはつながらない歯がゆい時間帯が続く。天気もそれに反応したのか、容赦なく雨を降らす。


 雨は一旦おさまるものの、徳高の先発塩沢がついに下松高打線につかまる。お互い1点ずつを加えた、6回表。四球、エラー、バスターエンドラン、グラブをかすめるヒット。


 スコアは7−3。徳高は米本に投手を変えるものの、さらに1点を追加され、5点差。また、1番打者の後(うしろ)が負傷交代。


 
 徳高側のアルプスから歓声が消える。俺を含め、誰もが「あきらめる」感情を覚えたはず。


 しかし、塁をうめていく「TOKUYAMA」のユニフォームをまとった「あきらめる」ことを知らない選手の姿に、誰もがその間違いに気付く。


 相手投手の連続四球、2アウト満塁から奇跡の振り逃げ、逆転タイムリー。いつのまにかスコアボードは8−9。


 この一挙5点をもぎ取る攻撃の流れを引き寄せたのは背番号「12」の控え捕手。


 代打の出番をものにした倉増の、2塁上での会心のガッツポーズが反撃の合図となった。


 春の大会まで「2」をつけていた倉増は最後の夏をベンチスタートで迎えることとなった。それだけに1打席にかける思いは誰よりも強い。


 普段は猫背気味で少し頼りない背番号「12」が輝きを放った。


 9回表の下高の反撃を抑え、徳山高校は校歌と言う名の勝ち名乗りを挙げた。


 すれ違う人々が「いい試合じゃった!」と声を荒げ、ナインが我々の前に姿を見せると、あたかも優勝したかのような空気が生まれた。
 
 
 「あきらめない」


 その言葉の意味を後輩達が教えてくれた。
 

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