見過ごせない事例だなぁ

  • DIME
    2007年12月27日 12:28 visibility100

やっぱりこういう事例が出てきたか、って感じ。
現在のようなドラフトに縛られた間違った選手獲得制度が続くと拡大する一方だろう。

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NOMOクラブの須田がマリナーズへ

NOMOベースボールクラブの須田健太投手(18)が大リーグ、マリナーズとマイナー契約を結び、来春渡米する。04年発足の同チームにとって05年柳田(中日)に続くプロ選手の誕生で初の大リーグ移籍となる。

須田は一昨年、平安に入学して1年秋からベンチ入り。2年の新チームからは野手として4番も務めた。だが片道1時間半を超える通学に疲れを感じ、秋季大会終了後の11月に退学。野球もあきらめかけたが今年1月、同クラブの門を叩いた。野球に取り組む前向きな姿勢が、投手としてMAX153キロを計測する成長に結びついた。8月には18歳以下の社会人で構成された「BFA AAAアジア選手権」(台湾)の日本代表に選ばれた。9月の全日本クラブ選手権1回戦で郡山クラブ戦に先発として登板。潜在能力に注目していたマリナーズの勧誘に、須田も「メジャーは意識したことはなかったけど、松坂さんを超えられるような投手になりたい」と決意した。

不死鳥・野茂が設立したチーム。日本ハム入りする“中田世代”の「ダイヤの原石」が、アメリカンドリームに挑戦する。

◆須田 健太(すだ・けんた)1989年(平元)7月22日、大阪市生まれの18歳。持ち球は直球のほかスライダー、カーブ、ツーシーム。1メートル82、80キロ。右投げ左打ち。 
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NOMOベースボールクラブは日本野球連盟に所属している(リンク先参照)
んで、新人選手選択会議(=ドラフト会議)規約によれば、日本野球連盟とNPBの間とで交わしている協定は以下のようになっている。

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第3条 (日本野球連盟の選手)
日本野球連盟に所属する選手にたいしては、同連盟と日本プロフェッショナル野球組織との間の協定にもとづき、次の方法により希望入団枠による獲得あるいは選択する。
(1)
球団は、日本野球連盟所属選手が同連盟に登録後2年(シーズン)間はその選手と選手契約を締結しない。
ただし、高校卒業の選手ならびに中学卒業の選手については、その選手が同連盟に登録後3年(シーズン)間は選手契約を締結しない。
同連盟所属選手が大学(短大、専門学校を含む)中退選手(体育会に籍のあったもの)である場合は、この契約禁止期間を登録後2年(シーズン)とする。
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今年の2月に書いたこの日記(NPBが目指すべき形 ドラフトと閉鎖型モデル(その3))で、懸念したように、NPB経由ではなく、直接メジャーを目指して海を渡るという例は、現在の制度が続く限り増加の一途をたどるだろう。
ただこの事例の問題はそこではない。協定に従えば、須田健太のケースは、中学卒業の選手という扱いになるので、同連盟に登録後の3シーズン後、つまり再来年まで待たないとNPBは指名することは出来ない。それに対してもちろんなんら制約を持たないMLBはこのように連れて行くことが出来る。

例えば先日ブレーブスと契約した関口将平投手の場合は、各種ドラフト系の雑誌やHPで名前が多く挙がっていたわけで、一般の認知度は別としてもプロ野球の各球団のスカウト陣がその存在を知らないほうがおかしい。私ですら知っていた。
つまり関口の場合は、NPBは指名せずMLBは指名したということ、先に指名できるチャンスを見送ってその後にMLBだったわけだから構わないといえば構わない。NPBが見送った理由はモノになるまで5年或いは10年ぐらいはかかりそうという世間一般(この場合ドラフト関連の世間に限られるが)の見立てと同じだろう。育成3年、支配下3年ぐらいなら面倒見ようかなと思う球団がでてきてもおかしくないので、育成選手としての指名ならあるんじゃないのかと思っていた。実際は育成ドラフトの前にブレーブスが持っていってしまったのだが。
そういう意味で言えば、NPBにも獲得チャンスが与えられていたのだからある程度は構わない、問題はこの契約のようにNPBは手を出せないのに、MLBは手を出せるという手法が出来てしまったこと。

これで、高校中退→クラブチームに入団という経過をたどれば、どんなドラフトの目玉候補であってもNPBは手を出せず、MLBは手を出せるという実例ができた事になる。
そしてこの経過は大学中退の選手にも当てはまる。大学中退→クラブチーム入団となれば同様に2年間は指名できない、その間MLBは簡単に手を出せる。高校中退というのはなかなか決断しにくいとしても大学中退ぐらいならばMLBに入るためになら決意できる人間は結構居るのではないか。
ある程度“ご祝儀”込みの数字とは言え、同じように“ご祝儀”込みの数字で書かれる雑誌のリポートでさえ150kmに到達していた同世代の投手は片手で足りるぐらいしかいない。
もちろん、投手というのはスピードガン競争をやる職業ではないので、どれだけ速球が早かろうともそれだけでは価値が無いけれど、さすがに150kmを超えるとなればそれだけで貴重、十分指名される可能性はあった選手だと思う。
それだけの素材だった選手をNPBは取れずにMLBは取れるという実例が出てしまった、多くの人にこの方式が知られることになった。これは見過ごしていい問題ではない。

西武の不正スカウト問題が発生した時も世間の大勢は、MLBへの流出という差し迫った危機よりも、とりあえず感情的に納得できるが実質的にはなんら問題の解決にならない逆指名の無いドラフトへと逆行することを支持する人が大半だった。
その時点で多くの人が主張したのは、「MLBでは長い下積み生活が必要になるのに対してNPBでは高い契約金が用意されすぐにでも活躍が出来る為条件に大きな隔たりが有り、優れた選手であるほどメジャーに直接流出することはない」、という主張だった。
しかし、先日の日記(育成ドラフトについて。)でも触れたように、巨人に育成ドラフトで指名された2名の高卒選手は、社会人からの誘いを断っている、環境よりもNPBに入れることを優先した。
こういう実例が出ているにもかかわらず、前者がNPBに後者がMLBに変わったときに何か違ってくるのかと思えば、上記のような主張はちょっと現実に即していないと思わざるを得ない。

“指名される側”にとってうまみの無い、プラスの無い方向へと球界が逆走しつづける事で、アマチュア選手と球界との距離がデッドラインをはるかに超えるまでに広がり、気づいた時には選手側へ歩み寄ろうとしてももう選手には見向きもされ無いようになっているかもしれない。
やはり、この問題は座視していて良い問題ではない、もっとアマチュア選手の側へ球界が歩み寄っていくような制度を作らなければ、プロ野球の地盤沈下は止まることが無いだろう。


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文体戻して、話ついでに、触れておきますが、西武の不正スカウト問題の結論をほんとに読んでいるのだろうかという人が世の中多すぎるのではないかと思わざるを得ないところがあります。
こちらの「アマチュア選手に対する金銭提供、その他のルール違反に関する最終報告書」(pdfです)が、西武が発表した資料。そしてこれに対して発表された西武へのNPBからの制裁がこちらの「株式会社西武ライオンズの野球協約違反行為に対する制裁の通知」です。
皆さんちゃんと読んだ事が有りますか、ないのなら是非一度は見ておくべきです。

読んでみればわかると思います、裏金がいつからあったのか、西武ライオンズの設立当初から、つまり逆指名制度の開始とはなんら関係の無いタイミングからです。
では裏金を止めようとした理由は何なのか、これも書いて有ります、倫理行動宣言に違反するからです。
で、なぜ西武が処罰されたかというと、それまで支払っていた選手に対して元々約束していた金額の残金を倫理行動宣言が出された後に支払ったからです。

いいですか、勘違いしないでください。逆指名制度の無い期間にも多数の裏金があった事実が認められている、つまり逆指名制度の無いドラフトを行うことが裏金の発生を防ぐ要素には全くなりえないというのが西武の問題から明らかです。
そして、もう1つ、では西武がそういう問題行動を止めるきっかけとなったのは何なのか、抑止力となったのはなんなのか、倫理行動宣言です。

西武のアマチュア選手への不正提供問題が示しているのは2つ

 1、ウェーバー或いは抽選或いは逆指名、それらドラフトの方式と裏金の存在になんら関連性が無い
 2、裏金をなくすための抑止力となるのは倫理行動宣言であった

です。
今、ドラフトがどのような制度になるべきかということを論じている人の中の大多数が、「裏金問題をなくすためには逆指名のような制度があってはいけない」と言っています。
しかし、逆指名と裏金とは少なくとも明らかになっている範囲では、全く関連性はなかったというのがこの報告書から導くことの出来る結果であり、逆指名の廃止は裏金をなくすこととはなんら繋がらないと言えるわけです。
逆に倫理行動宣言は今も当然実効力を持っています、これがある限り明らかになっているような裏金の抑止力になるということです。
繰り返しますが、裏金問題が発生しない事へ効力を持っているのは倫理行動宣言であって、ドラフトの方式では有りません。
この事実を前提にNPBは話し合っているわけです、にもかかわらずまるで事実を誤認しているとしか思えないのが大多数の報道だし、その報道を前提とした意見です。そういう目で見ているから、NPBの話し合いがおかしなもののようにしか見えてこないんですよ。

もちろん、可能性として逆指名制度が発生したことでこの裏金が高騰し、その結果として明るみに出ることになったという可能性は否めません、というか多分そうでしょう。
でも、問題は裏金があるかなしかの問題であって、昔のような低い水準に戻れば裏金があってもいいのかといえばもちろんNoですよね。
で、あるかなしかの問題で言えば、抽選制だった頃にもあった、逆指名が導入される前からずっとあった、これが事実です。

ですから、裏金のような問題をなくすという事に関しては倫理行動宣言や或いはそれを更に進めるような罰則規定を設けることによって対応すべきであり、ドラフトの方式はなんら関係が無いのですから選手にとってNPBに入るという事が魅力があるようにすることを第一に考えるべきです。

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