MLBでの投手の使われ方。

  • DIME
    2008年02月19日 12:22 visibility9483

その前にひとまずお詫びを。
キャンプ開始時点での事を書くはずなのに、既にキャンプの終わりが見えてるって、ありえない。
ちょっと色々用事が立て込んでしまってどうしても、時間が取れません。一応あんなので大量に時間を食うので書き終わりません。
本当に申し訳ないです。

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ってだけで終わってしまうと本当に救いが無いので、ちょっと気になる記事があったのでそれにあわせて考えてることを。
まずはその記事を引用します。

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城島 ディッキーのナックルに苦戦

マリナーズの城島が、ツインズから移籍したディッキーの魔球に手を焼いた。ブルペンで生まれて初めてナックルを受けたが、不規則に揺れる独特の変化に「簡単ではない。ナックル専門でメシを食っているキャッチャーもいるくらいだし」と苦笑い。「つかみにいくのではなく、前にボールを叩くようにする方がいい」と対策を口にした。
現状ではディッキーの開幕メジャー入りは微妙だが、マクラーレン監督は「点差が開いた展開で使えば面白い。他の救援陣を休ませられる」と新戦力に期待を寄せた。 
[ 2008年02月19日付 スポーツニッポン ]
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城島のところは特段興味のある部分ではありません、大事なのは監督の発言です。
何度か触れてきましたが、「捨てる試合は捨てるべき」であるのが野球です。NPBと比べてよりタイトな日程となっているMLBではその考えは既に基礎以前の常識にまで定着していることがこの監督の発言からも見受けられます。
点差が開いた展開=勝っているにしろ負けているにしろ試合の趨勢が決まっている試合のときに、連投やスタミナに問題が無いナックルボーラーがいれば他の投手が投げずに済む、それはチームにとって非常に良いことだと言っているわけです。

俗にイニング・イーターと呼ばれる役割があります、これは言葉どおりの意味で、たくさんのイニングを消化してくれる投手ということです。
このイニング・イーターには大きく分けて2種類あります。1つ目は「能力もあり、かつ投球回数も投げられる投手」という非常に優れた投手、阪神での井川のような存在ですね。その投手は勝つことだけに価値があるのではなく、イニングを消化してくれる=相対的に他の投手を休ませるという付加価値も持っている投手だということ。
じゃあ2つ目は何かと言えば、勝つことという価値はなくても、「たくさんのイニングを消化してくれる」、その価値を強くもっているという投手でもイニング・イーターと呼ばれ、そこに価値があるのだとMLBでは既に知られているわけです。
彼らの役割は「あまり価値の高くないイニング」に“貴重な資源”である投手をつぎ込まずに済むこと、その一点にあります、ですから多くは中継ぎです。ナックルボーラーはその性質(体への負荷が少ない)上、この役割を果たすには非常に適しています。
この例は去年NPBでも見ることが出来ました、広島のフェルナンデスです。正直見ている限りでは(私は去年あんまり試合を見ていないので断言は出来ないのですが)「捨てる」という判断がされる前に投入されることの方が多かったように思えますが、これはブラウン監督が単純に敗戦処理の役割以上の能力は彼にあると考えていたのでしょう。
もちろん捨てるときにも投げていましたのでそれぞれの「監督の意図の違い」が“試合を捨てることの重要性”を理解していないと判断しにくく、表面的には「何でもかんでもフェルナンデス」に見えてしまい誤解や的外れな批判に繋がっていたと思います。個人的には捨てた試合に投げさせていたこと自体はなんら問題があるとは思っていません。
そういう「捨てた試合で余計な資源を消費しない」という戦略がしっかり浸透している事も、MLBでは細々とではありますが今でもナックルボーラーの需要がなくならない理由の1つだと思います。
日本でもこういう意図をしっかり持って中継ぎを編成すべきであると言うのは先日の現有戦力評価(投手編)でも述べたとおりです。

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で、まぁついでなのでもう1つ、先発投手についてです。
これはちょっと古いのですが昨年、2007/8/13の週刊ベースボール35号P.16にあったジョー・ケリガン ヤンキース・ブルペンコーチの発言です。

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メジャーが5人のローテーションを組む理由
かつては4人のローテーションだったのが、60年代末から70年代初めに5人へと移行するようになった。理由は打者有利のルール変更が続いたから。69年にマウンドが6インチ(約15.25センチ)も低くなり、73年に指名打者制度が導入された。
投手の1イニング辺りの投球数が増え、疲れがたまることから、4人から5人になった。その上、道具が良くなりバットが硬く、ボールは飛ぶようになり、しかも新しく建てられる球場は建物自体は大きいがフィールドは狭い。投手にとって不利な事だらけで、それに対抗すべくブルペンとの分業制が確立された。
われわれとしては投手にシーズンを通して安定したピッチングをしてもらいたい。だから疲れをためないよう毎試合の球数をしっかりチェックする。日本より試合数も多いからね。
現在の中4日制は理想的だと思う。登板の翌日は休みで、2日目はブルペンに入り、2日間休んで、試合に臨む。ほとんどの投手は2日目にブルペンだが、10パーセントの投手は3日目に入る。休みの日は、何もしないわけではなく、ウェイト・トレーニングやコンディショニングなど、細かくプログラムを決めてこなす。
同じ先発ローテのメンバーでシーズンを乗り切るのは難しい。それができれば去年のタイガースのように勝てる。今メジャーの平均はシーズンに9人から10人の先発投手を使い優勝を狙っているのが現状だ。
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このインタビューも非常に示唆に富んでいます。
なぜ中4日制を敷いているのか、それに対してインタビューでは結局1つの理由しか触れていません、先発投手が一定のスケジュールの元で試合に臨めることです。
ここに、何故MLBでは中4日なのか、そして何故NPBでは中6日なのかという理由があります。どちらとも同じ理由から「最適の条件」を導こうとした結果、結論が違っているだけなのです。

ここには日程上の問題があります、MLBではそのスケジュールは不規則で、10何連戦と続くこともざらです。これに対してNPBでは基本的に月曜が休みの週6試合という規則的なスケジュールを組んでいます。
休みが不規則であるということは、規則的なスケジュールをそこに当て嵌めることができないということです。
結果として、休みが不規則であるMLBの場合は、試合日程に合わせて投手を入れていくよりも、投手の登板日を先に組むことになります。登板予定と試合日程が合わないときは「谷間」として、ちょっと劣る先発投手の日程を変則的にする、一回飛ばす、中5日にする、などの対策が取られます。

逆に日本の試合日程だと、そうやって投手の登板日を先に組んで、試合日程とあわせようとすると、「ある数字」以外の組み方ではぐちゃぐちゃになってしまうんです。実際やってみていただくほうが早いです。
皆さんの応援するチームの4月や5月頃の日程を見てみてください。とりあえず例として巨人のはこちらのリンク先のようになっています。ここに例えば4/1の中日戦から中4日を最優先で組んで行ってみます、4/6→4/11→4/16→4/21が月曜となるのでここで既に「一定のスケジュールで試合に臨める」と言う目的は達成できなくなります。
5人の投手で考えてみればもっと悲惨で、1回目からずれます、4/1からA〜Eの投手が投げると、4/2の投手Bは次の登板日が月曜日、さぁどうしましょう。
仮にBを火曜日にまわすと、ところてん式にC、D、Eとずれ、みんなもう中4日不達成です。
それじゃあダメだということで仮にBを一回飛ばすと、翌週はDが飛び、その翌週はAが飛び、その翌週はCが飛び、その翌週はEが飛んで、そしてまたBが飛びます、つまり5週ごとに1回ずつどの投手も飛びます。このときこの5週間でAが登板した回数は5回なんです。わかります?、5週間で5回、中6日と同じ登板回数しか投げられません。
参考までにもう1つ解として優れた投手1人或いは2人だけを中4日(休みと被れば中5日)で埋め込んでいって、空いたところにそれに劣る投手を入れていくという方式も考えられますが、これは言葉で説明するのが難しいので実際に今年のスケジュールから入れていってみてください、ぐちゃぐちゃになりますから。1人か2人のために他の先発投手のスケジュールは不規則極まりない。しかもやっていただければわかりますが、その結果として得られる利得、つまり優れた投手の先発機会の増加はせいぜい2,3試合です。非常に不規則になる3人目以下の投手に与えるマイナスを思えばその程度のプラスではどう考えても割に合いません。
つまり「中4日」という表面的な“結果”だけにこだわろうとすれば、日本では中4日と中5日が混在したぐちゃぐちゃの登板感覚で投げさせるか、不定期に長い休みを与えてしまって優れた投手を有効に活用することができないのかのどちらかでしかないのです。
しかし、忘れてはならないのは理由です、結果ではありません。何故先発投手でローテーションを組むのか、それは先発投手が一定のスケジュールの元で試合に臨めることです。
それを前提とすれば答えを導くのは簡単です。スケジュールに日程を合わせればよいのです、週に6日間試合があるとすれば、それぞれに先発投手を配し6名でローテーションを組めば、インタビューでもあった先発投手が一定のスケジュールの元で試合に臨めることが達成できるわけです。
算数に言い換えれば、日本では週、つまり7個ずつ分けられた単位毎に定期的に休みの日が決まっているため、中4日、つまり5の倍数で組もうとすればおかしくなるのです、この場合、もっとも最適な解は当然7の倍数、つまり中6日となります、「ある数」とは7の倍数です。
中6日という設定が決まったあとに、じゃあそれぐらいの間隔があるなら、先発投手は●●球ぐらい投げられるね、っていう話になるのです、当然中4日で100球という世界と比較すれば中6日なら100球以上でしょう、ただそれだけなんですよ、NPBとMLBの先発投手の使われ方の違いってのは。

表面的な「中●日」というところばかりを気にして、NPBとMLBは違っている、遅れている、MLBにあわせるべきだと言うのははなはだしく間違いです。NPBもMLBも同じ目的意識のもと最適な解を求めています、それが結果的に違うだけなのです、思考は同じです。
私は自信を持って言えますよ、MLBがもし仮に日本と同じような日程となれば、彼らは中6日を選びますよ、間違いなくね。
結果が大事なのではありません、彼らが頭の中でどう考えているのかが大事なんです。

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あと1つ示されているのは、実際のところシーズンを見据えれば先発投手と言うのは何名ぐらい必要なのかということ。
先日の投手編でも私は12〜15名ぐらいが必要と書きましたが、MLBでは中4日なら基本5人で、その倍の10名前後、6人でローテーションを回すなら、倍の12人前後となるのではないかと思います。
それを念頭に置けば、キャンプスタートの時点で先発投手6枠が既に埋まっているような状態(つまり今の巨人ですが)というのは決して間違ってはいません、全体の枠が12名なんですから。
怪我・不調・その他不測の事態はたくさんあります、それを含めて俯瞰的に考えれば先発投手の必要人数は非常に多いのです。
もちろん結果だけを見れば、上位5、6人ぐらいで先発投手としてのほとんどのイニングを消費しています、ですが先ほども言ったとおり大事なのは結果ではありません。結果から示されることだけを見ていては本質を見失います。
結果的にはそうなったとしても、その消費を形作るためにはその5,6人だけでは足りないのが普通なんです、もし足りたのならばインタビューにもあるとおり容易に勝てるチームとなりえますが、そうそう都合の良いことはおきえません。
都合が悪くても勝てるチームになるには、そこまでを見据えてチームを編成しなければならないのですし、本来それはどのチームも目指さなければならないことです。

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(追記)

コメントへのレスですが、一応本文にもあげておきます。「雨天中止」が先発ローテーションの組み方に与える影響についてです。結論だけ先に言うと無視すべき程度しかありません。

面倒だったんで去年しか調べてないのですけれど、セパ合計864試合中、雨天中止は39試合でした。率に直すと4.51%です。
これを例えば、セ・リーグで考えるとドームは2箇所あります。この場合、地方開催を考えないものとすると、ドームを本拠地とする球団の場合は40%、本拠地としない球団は80%が雨天中止の可能性がある試合となります。
これらから計算すると、巨人や中日の場合、年間144試合を行った場合の雨天中止数は2.60試合(1.81%)、他の4球団の場合は5.20試合(3.61%)です。
パ・リーグの場合ですと、オリックスの本拠地を大阪Dと仮定した場合、屋根つきチームが10%、屋根なしチームが60%って事になります。それぞれ0.65試合(0.45%)、3.9試合(2.71%)です。
地方球場での開催などの要素を付け加えたとしても、どの球団であっても5%は超えないだろうと思われます。特に屋根付き球場を本拠地とするチームの場合は2%さえ超えないでしょう。

しかも現時点の気象予測能力では予め「何月何日に雨天中止が発生するか」を確実に予測できるのは直前でしかありません、時期によっては翌日の予報すら精度を欠きます。

ということは、雨天中止を考慮したうえで年間の予定を立てると言うのは、5%未満の頻度でしか発生せず、かつどの時点で発生するかさえも予測できない事象を考慮に入れる、これは大変に非効率で非生産的な考え方です。
そのような極々稀な例外事項が発生した時には、発生してから何らかの対処法を検討すればよいだけであり、事前にそのような頻度の低い可能性を考慮して、最善手に修正をかけるのはあまり賢いやり方ではないでしょう。

以上から、雨天中止は考慮されるべきファクターとはなりえない、中6日を選択するのが正しい選択だと言う結論に「雨天中止」という要素の存在からもたらされる影響はあるべきではないと私は判断します。

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