★白球、天を衝く 第2球〜合宿所〜★

  • 鷹乃廉
    2009年06月19日 22:22 visibility91

二話目完成しました。たくさんのコメントありがとうございます。
 第1球 〜始まり〜
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 他の部活動と違い野球部は専用の球場を持っている。しかし明法西園寺野球部専用グラウンドは校舎に併設されておらず、学校の敷地から離れること5km、急勾配の山道を上った先にある。

初めての練習参加なので、新入生は先輩を先頭にしに案内されながら歩いて山を登っていくのだが、この坂道の傾斜が並ではない。ただ歩いているだけなのに足に相当の負担をかけてくる。自然と息が上がってくる斜面を登ること40分。ようやく球場の端が見えてきたころには誰もが汗をかき始めていた。



 球場の入口には『明法西園寺 野球部合宿所』と古びた木製の看板が掲げられている。かなり伝統のありそうな場所だ。入口を入るとすぐ左に二階建ての野球部の合宿所が見えた。ここで部員は着替えたりミーティングをするらしい。一階はボールやバットなどの道具を保管する場所なので二階で着替える。



 新入生は一列になって合宿所の外階段を上る。見たところこの合宿所は相当古い建物だ。周囲の壁は蔦が生えている。所々朽ち果てている壁があるし、今自分が登っている階段も心なしか揺れている。部室に入るとすぐに着替えるように指示された。新入生はまだ誰も練習着を持っていないので、教科書などの入った荷物を置き、学校指定の体育着に着替えた。


 
 全員が着替え終わり革靴から練習用のシューズに履き替え、合宿所を出たころにはグラウンドで既に練習が始まっていた。ノックを打っているのが監督なのだろうか。知る術はない。言い知れぬ緊張感を皆感じ取っているのか新入生はほとんど無言だ。


新入生は敷地入口の門に集められた。これからどんな練習をするのかと考えていると、新入生指導係の上級生がにこやかに走り寄っていた。



「指導係の水島です。一年生、今日はこれから走りに行くから後ろをついてきて。何か質問があったら言っていいからね」
そう言うと、水島さんは早速走り始めた。

グローブまで用意していた新入生の中には半ば唖然としている奴もいるが、これくらいは予想の範囲内だ。一年生はまず体力作りというのはどの運動部でも同じであろう。


走り始めてすぐ、勇気ある誰かが質問をした。
「今日はどれくらい走るんですか? 一時間くらいですか」
「終わるまで」



終わるまで・・・たったそれだけしか言わない水島さんの言葉が、さらに緊張感を伝染させる。
このやり取りを聞いて大体のことを察した。合宿所を出る時ちょうど二時頃だったから、日が暮れてグラウンドの練習が終わるまで新入生はひたすら山道を走り続けるのだろう。



 来る時に登ってきた道を下っているように思えるがどこまで走るのだろうか。練習は何時に終わるのか。練習初日から、新入生を歓迎する終わりの見えないマラソンが始まった。


 


・・・続く

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