息子の選択
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ケン#39
2008年12月30日 01:27 visibility152
つ、ついに、恐れていた事が現実になった。
ボクは、息子が生まれたその瞬間から、いつか
訪れるかもしれないこの日を密かに恐れていた。
息子がサッカーをやりたいと言い出したのだ。
よくよく聞いてみると、どうも仲良くしている友達が、
最近サッカーのチームに入ったことが影響してるらしい。
なぁんだ。友達がやってるからボクも、ってやつか。
んなら、少し時間を開ければ、どうでもよくなって
しまうに違いない。
そう思って、ボクは息子に、
「よし、んじゃ、まずはお父さんといっしょに練習を
見学に行こう。小川クン(仮名)に、何曜日どこで
何時から練習してるのか今度聞いておいで。」
と言っておいた。
その後、息子の口からサッカーの"サ"の字も
出て来ないまま約二週間が経ち、ほれ見ろ、
もうケロっと忘れてるじゃないか、と思い始めていた
この間の休み。
2008年12月23日。
朝、うちの電話が鳴った。
いつものように息子が受話器を取る。
どうせまた友だちからの遊びの誘いだろうと思って
いたら、どうも話してる相手は大人のようだ。
「お父さん、小川クン(仮名)のお母さん。今日
1時半から学校の校庭で練習やるからおいで、って。
ねぇ、体験参加ってなぁに?」
普段は、ボクの言いつけなんか5分もたたないうちに
スコーンと忘れてしまうくせに、今回はちゃんと小川
クンとの間で話をつけていたらしい。
しかも、見学じゃなくて、体験参加という形で。
「げっ、マジで?」
と心の中では思いつつ、
「そっか、そらぁ楽しみだな。よし、行ってみよう!」
と、学校の校庭に向かった。
幸いにして、十数人いる同じ学年の子のうち、なんと
11人が同じ小学校で、ほとんど顔見知りの子ばかり
らしかった。
初めに、全員が集合した前で紹介された時にはさすがに
息子も少し緊張した様子だったけれど、学年ごとに
分かれて体操を始めた頃には、同じクラスの子と並んで、
楽しそうに屈伸をしたりしていた。
で、いよいよ個々人にボールが配られ、ボールを
使った練習が始まった。
あれ何て言うのか知らないけれど、地面に置いた
ボールに、片足ずつ交互にぴょんぴょんと跳ねながら
つま先を触れさせるのから始まり、その後、今度は
単純な直線のドリブル。
ボールを身体から離さず、小刻みにボールに触れなさい、
とかなんとか言われている様子だった。
たぶん、野球で言えば、手で転がしたゴロを捕る
練習みたいな、弾むボールと、手にはめたグラブの
感触に慣れる、といったレベルの練習なのだろう。
で、息子の動きはというと、・・・・・
これがまた、どんクサイ。
コーチが寄って来てくれて、これはねぇ、こうやって
こうしてごらん、とか言われてるのだろうけど、
それに倣って動く息子の動きが、プッっと、吹き出して
しまうほど、どんクサイ。
家を出て学校へ向かう途中、
「こうやってシュートするんだよ!」
などと、当然のごとくできるもんだとイメージを
膨らませていた息子が、今、現実に直面している。
「あれ?あれれ?」と思っているに違いない。
そのうち、フテ腐れて投げ出してしまうんじゃ
ないかと段々心配になってきた。
そんな息子のどんクサさにはお構い無しに、練習は
少しずつ手の込んだものになっていく。
次は、線で囲まれた4、5メートル四方の中を全員で
ドリブルしながら、ぶつからないように動き回るやつ。
息子に比べると凄まじいスピードで動きながらボールを
操る他の子たちの中で、ボクの息子はまるでスロー
モーションで動いてるみたいだった。
ドリブルしては、ボールが四角の外へ転がってしまい、
あわててボールを取りに行く。ボール以外に目線を
やることができず、ただひたすら下を向き、足元の
ボールに恐る恐るつま先を触れる息子。
そんな息子の様子を見ながら、ボクはふと気がついた。
ボクの息子は、その時、すっごく"いい顔"をしていたのだ。
最後に、バレーコートほどの大きさのコートで
チームに分かれ、ミニゲームとかいうのをやった時、
ボールとは全然関係の無いところをウロウロする
だけの息子のところに、たまったまボールが飛んで
来て、それがたまったま足に当たっただけなのに、
うれっしそうに大喜びする息子を見ながら、
ひょっとすると、ボクは今、ボクの息子の人生で
記念すべき瞬間になるかもしれないその場に
立ち会ってるのかもしれないと、なんだか胸が
ドキドキした。
なぁ、鉄之助(仮名)、
巨人の星にはなれなかったお父さんだけどさ、
実は、星一徹になるのがお父さんの夢だったんだぜ。
なんでまた、サッカーなんだよ。
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- 事務局に通報しました。
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