捕手は桶、配球は科学

タイトルはなんのこっちゃと思われますが、私は捕手は桶だと思うのです。

長さがばらばらの板を組み合わせて桶を作ってしまうと、その桶には最も低い板の高さまでしか水が入りません。

それと同じように、捕手のスキルというのはどんなに高い能力があったとしても、その低いレベルに合わせてしまうように思うのです。

 

その中で、私の中で特に重要なのは、「基礎基本の配球ができるか」というところだと思います。

その基礎基本の配球というのは単純に、「打者のタイミングを外すことができる配球」であり、

「打者のタイミングが合わない球種をストライクゾーンに要求することができる」

「打者のタイミングが合う球種をボール球に要求することができる」

という配球と考えることができると思います。

その打者のタイミングを見抜くというスキルは桶でいうところの底板と箍だと思うのです。

桶は箍がないと桶として機能しませんし、底板がなければ水がたまることはありません。

 

配球の基礎基本を理解していることが箍や底板であれば、それ以外のカウント別の配球であったり、打者の傾向をつかんだ配球というのは、それこそ桶を構成する板だと思うのです。

 

よく、「配球は結果論」という言葉を聞きますが、自分の中では「配球はきちんとしたサイエンスだ」と感じることがあります。

アウトやヒットというのを成功失敗と定義すると、やはり結果論という言葉は正しいかなと思います。

しかしながら、成功失敗の定義を別の要素に変えるとやっぱり配球は科学だといえる気がします。

 

私はこの科学というのをどう考えているかと言えば、

・「○○は××ではないか?」と仮定をすること

・「○○は××である」として、条件をしっかりつけて論理展開すること

・別の機会に同様の仮定と論理展開をして再現性があること

ということが科学だと思っておりまして、そのもとでいえば、配球は科学だと思うのです。

・「Aは○○にタイミングが合っている?ならば××なら大丈夫だ」と仮定し

・「○○にタイミングが合っているからストライクゾーンにもっていかない」と条件を付けて配球を組み立てる

・「やった!思った通りの結果になった」

・「Bは××にタイミングが合っている?ならば○○なら大丈夫だ」と仮定し

・「××にタイミングが合っているからストライクゾーンにもっていかない」と条件を付けて配球を組み立てる

・「やった!思った通りの結果になった」

といったことですね。

 

では、アウトやヒットを成功失敗と定義せずに何を成功失敗と定義するのか。

私は、「打者が打ち損じなければジャストミート」を失敗、「打者が打ち損じなくてもジャストミートにならない」を成功と定義したいと思います。

とはいえ、失敗の状況においても必ずしもヒットになるとは限らず、逆に成功の状況であっても必ずしもアウトになるとは限らないのです。

そこで、失敗の状況下と成功の状況下でヒットになる確率がどうなのかということを考えてみたいと思います。

 

ここで、失敗の状況下で考えうる打席結果を「同様に確からしい(すべての結果が偏りなく等しく起こりうる)」として考えてみたいと思います。

ジャストミートというのは、強く速い打球が飛んできます。すると、野手が打球に追い付くのが難しいと思われます。そうなると、ヒットは必ず外野に飛ぶ強い打球とみることができます。内野手(投手含む)の強襲ヒットはそういった打球の軌道上にあるとします。

 

そうすると、各外野手が追いつく安打が1通り、外野手が追いつけない打球が3通りあります。

追いつく安打は前に落ちるヒット。追いつけない打球は野手の右、左、後に飛ぶ打球です。

そうすると、レフトでは前(レフト前ヒット)、レフトから見て右(レフト線ヒット)、左(左中間ヒット)、後(レフトオーバーヒット)となり、センターは左中間ヒットを除けば、センター前、右中間、センターオーバー、ライトは右中間ヒットを除けばライト前、ライト線、ライトオーバーと打球方向を考えることができます。

これを考えていけば、安打は10通りの打球方向があると定義できます。

 

逆に凡打になるケースはどのくらいあるのでしょうか。

強い打球なのでフライアウトはすべてライナーと定義してよいでしょう。また、ジャストミートしているという状況ですので、ファウルになるライナーは野手が追いつけずすべてファウルとなると考えます。

 

また、ジャストミートした打球で捕手が処理することはまずありえません。あるとしたらピッチャー強襲をキャッチャーが処理すること以外はないと考えてよいでしょう。

 

以上のことを踏まえるとゴロアウトになる場合の数はインフィールドにいる野手でキャッチャーを除いた5人(ピッチャー・ファースト・セカンド・サード・ショート)が処理する5通り、

ライナーアウトになる場合の数はキャッチャーを除く野手8人が処理する8通りあると考えてよいでしょう。

そうすると、凡打は13通りの打席結果があると定義できます。

 

つまり、これを確率で求めるとしたら、全事象(つまり打数)が23通りあって、そのうち安打のケースは10通りですので、.435(23-10)という確率が出てきます。つまり、57%アウトになるという考えになります。

 

「失敗というけれど57%アウトならそれでいいじゃん」

 

と思うかもしれませんが、打ち損じなければジャストミートされる配球をすることは、常に4割越えの打者を相手にしなければならないということと考えたらどうでしょう。非常にバッテリーは苦しくなると思います。

でも、そういった配球でも抑えられなくはないのです。それに、投手がすごければ打者が打ち損じる可能性が高まるので、それこそ配球など関係ないという状況下にできるのです。

配球ができない捕手ほど、本格派の投手であったり、タイミングの取りづらい特殊な投手とのバッテリーが多いと感じます。つまり、本格派の投手が揃っている状況下では捕手がどんなに配球が出来なくても関係ないのです。しかし、その投手陣が崩れると「どうして勝てないのだろう?」という状況になっていくのです。

 

では成功のケースでの確率を考えてみましょう。

ジャストミートできない打球というのは、打球速度が遅いので、野手が追いつきやすいので、外野に飛ぶ打球はすべて野手の前で処理することができます。ゆえに、レフト前ヒット、センター前ヒット、ライト前ヒットの3通りと見做せると考えられます。

また、内野安打に関しては、打球速度が遅いとその分打者走者に猶予を与える時間が増えますので、捕る位置が一塁から最も遠いショート内野安打を考えることができます。そのほかの内野安打に関しては基本的にはゴロアウトになるケースがほとんどですので、考慮しなくてもよいと思います。

 

すると、この配球が成功と見做せる場合での安打の場合の数は4通りと考えてよいでしょう。

逆に凡打になるケースは、

ゴロアウトがインフィールド全野手の6通り、フライアウトが全野手の9通り、ファウルフライアウトがキャッチャー、ファースト、サード、レフト、ライトというライン際の野手への方向で5通りと考えます。

さらに、タイミングが合わない球種でストライクを取れる場合には見逃し三振があります(この場合の空振り三振は見逃しても三振なので見逃し三振に含めます)し、タイミングが合ってもボール球を振ってしまう空振り三振の2通りの三振も加えると、凡打になるのは、22通りあると考えられます。

 

そうすると、この場合での打率を考えていると、26-4ですので、打率は.154となり、85%は抑えられると考えられるのです。

ベースが57%アウトになる配球(常に失敗するとは限らないからたまに成功する)とベースが85%アウトになる配球(常に成功するとは限らないからたまに失敗する)、どちらの方が失点のリスクを抑えられるでしょうか。

どう考えても85%アウトになる配球でしょうね。

 

その「常に4割打者と勝負することになる配球」をしてしまうことがどうして桶でいうところの箍であり底板なのかと言えば、投手が制球が良ければヒットになる確率が高まり、失点のリスクを孕んでしまうことになる。ということなのです。

 

でも、うまいこといけば、0に抑えられて勝ててしまうし、投手交代というマクロなタイミング外しを行うと、打ち損じの確率も高まりますので、「先発投手のイニングが多くなく、リリーフ投手が活躍する」という状況は大いにあるのです。

 

ちなみに、成功時と失敗時は同時には起こりえない(互いに排反事象)ので、足し合わせることができます。

そうすると、49-14となり、.286と出ます。これを考えると、「3割打者」というのはやはりすごいといえるのではないかと思いますね。

 

野球というのは人間がやるスポーツです。「最低限これをすれば勝てる」というその最低限のレベルが低ければ低いほどプレイヤーのプレッシャーは軽減され、パフォーマンスを発揮しやすい環境になりうるでしょう。

しかし、そうでない場合にはどんどん「最低限」のレベルが高まってしまい、どんなにポテンシャルの高いプレイヤーがいてもそのポテンシャルを発揮できず、低パフォーマンスに終わってしまいます。

 

その最たるものがバッテリーの配球であると思うのです。勝負球をすべてストライクゾーンにするということは、打者がタイミングの合う球種が配球されるという状況になるわけで、その中でさらにコースによる配球を組み合わせると、投手には精密な制球力が求められます。

しかし、ストライクゾーンは「ストライク」なわけで「打つ」ゾーンなわけです。特にプロの一軍のレギュラー選手であれば、スタンドインはなくともストライクゾーンにタイミングの合う球種が来ればジャストミートする確率は非常に高いです。

逆に、ボールゾーンに投げる球種でも勝負球になりうると考えられることは、「ボールゾーンに投げる球種」こそがタイミングの合う球種であると見抜き、その球種をストライクゾーンに投げさせないという条件を限定し、論理展開できるということとイコールであると考えられると思います。

 

つまり、「ストライクゾーンでもこのコースでないとNG」と「この球種をストライクゾーンにさえ投げなければOK」とでは、どちらの方がよりプレッシャーがかからないでしょうか。明らかに後者の配球ですよね。

後者の配球をする捕手が正捕手にいてこそ、投手陣の構築がスタートします。ただ、後者の配球ができる捕手をメインに据えても、それまでの正捕手が前者の配球であった場合に、投手陣が一時期不安定になります。

 

投手はどうしても「甘い球を投げると打たれるかもしれない」という不安であったり、「ボールは無駄球だからストライクが欲しい」という焦燥感に苛まれます。だから、いわゆる強打者という打者に対してストライクが入らなかったり、ボール球を投げようとして甘く入って打たれるというケースが往々にしてあるのです。

そこで、我慢が出来なければ、また前者の配球をしてしまう元の正捕手に切り替えてしまい、同じことを繰り返してしまうのです。

 

私個人的に下位に低迷しているチームの新監督は2年契約が基本であると考えております。

下位に低迷(たまに上位進出をする場合もあるのですが、何度も最下位に甘んじるチームを低迷と定義します)しているチームのほとんどが前者のような配球をしてしまう捕手が正捕手として君臨してしまっている状況にあり、投手陣が壊滅状態であるといえます。

そこで、そういう捕手を除外(または再教育)して、後者のような捕手を正捕手に据え、投手陣からの信頼感を得るまでの間の過渡期を我慢するというのが1年目のシーズンだと思うのです。そこから2年目のシーズンでバッテリー以外の改善点を見直しつつ優勝争いをするというのが基本線だと思うのですが、1年目のシーズンでその前者の捕手を除外するということが出来なければ、2年目のシーズンは意味のないシーズンになると感じます。

 

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