野球部の友達


  一度も野球部に所属したことのない僕だが、野球が好きと言う気持は隠したことは一度もない。

 小学生の頃からプロ野球や高校野球の中継を見て、翌日学校ではその結果やプレーの話をわいわい友達として盛り上がる生活を続けていた。

 しかし、そんな中途半端な僕は、真剣に野球部で汗を流している野球部員の方々にはあまり気持いい存在ではなかったようで、僕は野球部員の友達がほとんどできなかった。

 しかし、そのことを僕は恨み言として言っているわけでは決してない。

 むしろ、その気持をよく分かっているつもりだ。

 と、言うのは、僕は部活でフェンシングをしていた。

 今でこそ、太田雄貴選手の活躍で少しは世間に知られるようになったスポーツだが、僕が高校生の頃は「全身白タイツを着てやるスポーツ」というぐらいの認識しか周りに持ってもらえなかったと思う・・・ちなみに、フェンシングは全身白タイツなんて着ません。

 それで、昼休みに弁当を食べている時、部活をしていないクラスメートから「フェンシングなんて簡単なスポーツじゃん」みたいこと言われたことがあって、僕はもう少しでそいつをぶん殴ろうと思ったことがあった。

 しかし、考えてみたら、僕もクラス内で野球についてそういうことを無意識に言っていたのだと思う。

 今思うと、本当に申し訳なかったと感じる。

 しかし、そんな僕にも、友達として接してくれる野球部のクラスメートが何人かいた。

 そのうちの1人にT君という人がいた。

 彼は性格も明るく、誰に対しても寛大で、学業成績も良い素晴しい人だった。

 密かにT君を尊敬しているクラスメートは多かった。

 僕はT君と同じ中学、高校に進み、しかも中3と高1でクラスが同じだった。
 
 中3の3学期、いつものように何人か集まって野球の話をしていると、その中にいたT君がふと僕に言った。

 「なあ、お前、高校で野球やれよ」

 僕とT君はこの時点で同じ高校に進むことをお互い知っていたから、これは「同じチームでがんばろう」という誘いになる。

 僕はたじろいだ。

 心の中で

 「できるわけないじゃん。俺は少年野球すらやったことないんだ。運動音痴もいいとこだぜ。入部したとしてもレギュラーなんて絶対無理。3年間球拾いなんて嫌だよ」

 とすぐに思った。

 しかし、なぜか嬉しい気持もあった。

 T君は僕の野球好きを認めてくれた、と思ったのだ。

 結局、野球部には入らなかったが、運動音痴の僕は一念発起してれっきとした運動部であるフェンシング部に入部した。T君の言葉で心が動いたからだ。

 その後、T君とは高校で1年間クラスが同じで、色んなことがあった。

 偶然の成り行きで、僕のフェンシングの試合をT君が見てくれたこともあった。

 T君の応援してくれる声が聴こえた時は嬉しかった。

 「T君、君が僕の心を動かしてくれたから今ここで試合してんぜ・・・野球じゃないけど」。

 そう思った。

 次生まれ変わったら、必ずT君と同じグランドに立って白球を追いかけるのだ。

 普通なら別に、生まれ変わらなくてもできそうな話なのだが・・・そのT君がもうこの世にいないんだ。

 本当に残念だ。

 僕は野球を観に行くとき、球場に吹き渡る風に、T君の息吹をいつも感じている。

 (写真と記事は関係ありません)

 

 

 









































































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