僕の甲子園物語 第1話
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こじっく
2010年05月07日 19:55 visibility160
教え子・・・とか偉そうに言ってしまっていいのだろうか。
しかし、僕には甲子園に出場した「教え子」がいることは事実である。
僕は22歳で大学を出た後、つまらないいきさつからニートになり、25歳でようやく社会復帰を決意した。
この間、野球を観るのにも罪悪感があったが、グリーンスタジアム神戸で見たイチロー選手は我がニート時代の数少ない光明だった。
それはさておき、、就職活動は全敗し、やはり資格や特技がないと就職なんてできないのではないか?ということで26歳の春から専門学校に行くことになった。
いろんな面でかなり厳しい専門学校だったのだが、もう26歳になっていて親の脛をかじるにも恥ずかしさと、(実際問題として)限度があるので毎日学校が終わるとアルバイトに明け暮れた。
その中のひとつが家庭教師だった。
あの頃は毎日疲れ果てていて、時には生徒さんと勉強しながら自分は寝てしまいそうになっていたが、生徒さんとの楽しい日々は一生の宝物だ。
何人かの生徒さんを受け持たせて頂いたが、その中でも今だ忘れられない生徒さんがいる。
いずれ彼は野球選手として有名になる・・・と僕は信じているのだが、名前はS君としておく。
初めてS君のお家に伺った時、僕は家庭教師の派遣会社の社員さんと一緒にお邪魔した。
小柄だが元気のいい、目のキラキラした少年が出て来てくれた。
声変わりのしていない高い声が印象的だった。
これがS君だった。
S君は、塾へいっても友達とのおしゃべりや、やんちゃをすることに意識が行ってしまい、勉強どころではなく、家庭教師に切り替えることになった・・・と僕は社員さんから聞かされていた。
S君の部屋に入ると、まず目に付いたのが西武ライオンズ全選手の顔写真入りポスターだった。そのほか、野球道具やS君自身の映った野球の試合のパネル写真が飾ってある。「大会首位打者記念」とか書いた打席に立つS君のパネルもある。ほぉ・・・この子は野球が好きなだけと違って、野球が上手いんやな・・・。
一目でここは野球少年の部屋と分かる・・・そんな部屋に社員さんと僕は入れてもらったのだった。
すかさず社員さんが
「西武、好きなん?」
と聞く。S君は
「西武はあんまり・・・。でも、せっかくあるから貼ってるねん」
と答えた。あらら、子供の心をストレートに掴むことに失敗しましたね・・・すると社員さんは
「そうか。でも、この部屋は勉強部屋やし、こういうもんは貼らん方がええな・・・」
と、言い出すではないか。何を考えてるのか!僕は腹が立ったがここは黙っていた。社員さんは続けて、
「さあ、S君。君の実力を試そう。算数からにする?国語にする?」
と、問題集を出してきた。S君、明らかに嫌そうな顔。僕は口を開いた。
「巨人の松井って、星稜入る時の数学のテスト、100点だったんやて。算数からやろか。」
S君の顔が少しだけ輝いた。
この一言で、S君は僕を「家庭教師」として受け入れてくれようと決意した・・・と後で聞いた。
これがS君との出会いだった。
ここからS君が甲子園に出るまで書くと長くなってしまうので、何回かに分けることにします。また書きます。
(写真とこの記事は関係ありません)
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