野球読書日記「読売ジャイアンツ 川上野球の真髄」
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こじっく
2022年12月18日 15:57 visibility569
仕事が忙しく、少しブログを休んでいました。
この一冊は最近買いました。
私が生まれた時は既に川上哲治さんは監督職から退かれていました。この本で川上さんについて初めて詳しく知った気がします。
この本で私が理解したつもりになったのは以下の点です。
・川上さんは自他に厳しい鍛練を課す求道者だったが、実利や結果を追求する現実主義者の面も強かった。
・川上さんの野球は「ドジャースの戦法」という本によって基礎が作られた。
・参謀役の牧野茂さんが川上さんの野球を支えた。
・川上さんの下で野球をした選手の中からたくさんの指導者が生まれ、特に広岡達朗さんと森祗晶さんが川上野球の影響を強く受けている。
そして、川上さんと広岡さんの確執も隠すことなく書かれており、広岡さん本人が川上さんへの愛憎半ばする複雑な心境を語っておられます。
「野球評論家になった広岡は翌年春、 巨人のベロビーチキャンプを訪れた。 現地では驚くべきことが起こった。 ほかの評論家は球場施設への立ち入り が許可されたのに、自分だけはシャッ トアウト。それどころか広岡の姿を目 ざとく見つけた巨人首脳陣が練習を ピタリと止めてしまったのだ。
『広岡に見せるな、ということだ。 私 はスパイのように扱われたのだ』
広岡はとっさに球場を取り囲むヤシ の木の際に身を潜めた。グラウンドか ら広岡の影が消えるのが確認されるの と同時に、練習再開された。異国の地で味わった疎外感。その中 広岡は心に固く誓った。
『絶対に川上さんの上に行って自分の 野球の正しさを証明してやる』
そのために世界を1人で旅して各国 の野球を見て回った。アメリカではローテーションというシステムがあるの を知った。多民族国家だけに先発投手 に平等に登板機会を与えなければ差別 だと言われる。いまの球界では当然の ように組み込まれているローテーショ ンが民主主義の産物であると実際に自 分の目で見て理解した。サンケイスポーツの野球評論家とし ては慣れないペンと記者ハンドブック を手にしながらの原稿書きに悪戦苦闘。 北川貞二郎運動部長から何度となく書 き直しを命じられた。その経験から要 点を一つに絞って、それ以外は切り捨 書く手法を学んだ。古巣が栄光のV9真っ只中にある中、 広岡はひっそりと己を磨き続けた。原 動力になったのは川上を見返したいと いう反骨心。それがヤクルト監督時代 に花を咲かせた。76年シーズン途中に 就任すると、1年目は投手陣の強化1 点に絞ってローテーションを確立。 3 年目の78年、日本一監督に輝いた。」(49頁)
長く引用しましたが、川上さんと広岡さんの関係について書かれた部分はドラマチックです。広岡さんが川上さんへの対抗心を燃やすほど野球の真理の海に深く潜ることになり、やがては広岡野球を打ち立てヤクルトや西武を日本一に引き上げることになる。川上さんだって単純な好き嫌いの感情で広岡さんを冷遇したのではない。チームのため、あるべき理想の野球のために信念を持って広岡さんに接した。しかし、結果的にそれが時間を経て広岡さんを野球人としてさらに高みに導くことになった。
川上さんの聲咳に接した方は年々少なくなっていきます。まして同じ時期にユニフォームに着た方となるとなおさらでしょう。
この本が世に出たことに感謝しつつ、今後さらに昭和の偉大な野球人を後世に伝える企画が継続されることを願うばかりです。
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