アジア勢と戦う難しさ:日本vsイエメン

  • soultrans
    2006年08月17日 03:21 visibility68

オシムジャパン(という呼び名が既にあまり好きではないんですけど)が戦う2戦目は、アジアカップ予選2戦目となるイエメン戦。オシム監督に就任してまだ2戦目ということもあるし、当然メンバーは、いわゆるジーコ時代とは大きく様変わり。僕の印象としては、オシムの選手の選び方は、走ることができるか、という点よりも、監督の言うことをきちんと聞くか、という点に重点が置かれたセレクションのような気がする。実力というよりも、組織を破綻させる個性は必要ないということなのかもしれない。もちろん、それが強烈な個性、ゲームをひっくり返す力を持つ個性であるならば、監督としては使ってみたいと思うのは当然だが、日本には、組織を無視してまで入れておいて戦力になる選手はいない、と考えているのかもしれない。

 で、試合なんですが。。試合そのものの評価はあまりよくはなかったと思います。でも、今回のチームは実質前回のトリニダード・トバゴ戦とは異なった陣容で、むしろオシムが選定した選手による初戦はこのイエメン戦であったともいえるので、そう考えれば、急造のチームで結果を出せたのは、相手がイエメンだったから当然、ではなくて、よかったといっていいと思います。逆に言えば、以前の代表でも(?)、今日の代表でも、「なんとか結果は出せるんだよ、下位のアジア勢には」というところを見せてもらえて、改めてJリーグのアジアレベルにおける層の厚さに安心しました。そういう意味では、日本のレベルは確実に向上しているとも思います。

 具体的な内容については、正直ジーコの時の戦い方に似ている気がしました。それも、かなり。トリニダード・トバゴ戦は、それこそ、オシムらしい戦略だ、ジーコとは違うぞ、と初戦ながら感じたものがありましたが、そこは親善試合であったことや、メンバーの違うところ、あるいはオシムの所信表明のポーズ?があるのかもしれませんが、今回のイエメン戦では戦い方がかなり慎重になっていたかな、と思いました。

 結局、公式戦になって引いて守る相手には攻め手を欠くという図式には、今のところ変わりはないようです。これは、ある意味、走ってもしょうがない。効率よく攻めなければ、点は入らないし。今回は、走るということで、決定的に相手を崩したプレーは少なかった。というか、いずれも相手のミスに乗じたもので、完璧に崩すことはできなかったと思います。すくなくとも、そう見えるプレーは、ゴール前ではあまりなかった。イエメンは、個の力では明らかに劣っていました。加地やサントスが縦へボールを持っていくだけで相手を振り切れるぐらい、差があったといっていいと思います。でも、それでも、ゴール前にボールを寄せることができない。

 最終的には、セットプレーから2得点取ることができたおかげで、勝ち点3を獲得することができたのは、本当に良かったと思う。引いて守ってくる場合は、どこの代表であっても、日本は苦戦するでしょう。そういう相手こそ、セットプレーで点が取れないと本当に厳しい。セットプレーを取ることも含めて、相手を崩すというのであれば、その点は、よく走る突破型の選手が多かったこともあって、かなりいい位置でのファウルをもらうこともできたので、成功したといえます。セットプレーの成功率は、10回あって1回でも成功すれば、こういう相手との戦いではOKだと思います。それが結果として2回成功したのは、良すぎたといってもおかしくない。「イエメンなんて相手はよくわからないから、5-0ぐらいなんじゃない?」と思っていた人は、残念を通り越して、「(新生)日本代表って弱い?」みたいに思われるかもしれないけど、少なくともカップ戦のような、勝利を積み重ねなければいけない試合では、点がたくさん取れればそれはそれに越したことはないけど、まずは勝つことが重要なので、個人的には、いいかなと思います。

 ただ、そこにはアジア勢との戦いを余儀なくされている日本の難しさがある、とも思います。正直、日本に勝てる戦い方を仕掛けてくるチームは、アジアでは数える程しかありません。もっと言えば、そういうチームしか、日本のディフェンスを切り崩す力がない。そうなると、ほとんどのアジア勢は、日本と対峙したときに、守備偏重のカウンター型になり、日本と最低でも引き分け狙いの戦い方をしてくる。日本が攻めあぐねて、人数をかけ、前がかりになったときに、たまたまいい位置でボールを奪い取ることができて確率の低いカウンターが成功すれば儲けもの。そういう戦い方をしてくるチームがほとんど。実際、今日のイエメンも、ボールを前線から奪いにいくプレスなんてほとんどなく、ボールを前に持ってくる日本の攻撃を一生懸命はじき返す。はじき返したボールは、とりあえずはじくものばかりだから、ルーズボールはまた日本の選手が確保することが多い。そしてまたボールをはじき返す−。それが今日のイエメン代表で、またそういう相手を流れの中から切り崩す力を日本代表は備えていない。よく言われることだけど、攻めてくるチームのほうが日本は攻撃を実行しやすい。攻め込んだ人数分、ディフェンスの数が少ないから。当然、自陣で攻撃に耐える時間帯も増えるが、それをしのぐことができれば、攻撃に移った時、引いて守る選手の数は少ないから、成功する確率は上がる。といっても、そういう場合は、攻撃にしても守備にしても、個のレベルや、相手の攻撃の質が大きくかかわってくるのだけど。。

 今日の試合は、そういうわずかな可能性をかけてのカウンターもほとんど防いだディフェンスがよくやっていたと思う。川口や坪井など、ディフェンスに終始した選手は、イエメンのわずかな希望をもきっちり絶ったことが、実は最も評価できたことだったかもしれないな、と思いました。イエメンは、引き分けでもOK、負けることすら、アウェーであることを差し引いても、覚悟していたと思うけど、日本の場合、引き分けでも、確実に敗北に近い雰囲気になったと思う。相手のチャンスをことごとく摘み取れたディフェンスは、きちんと仕事ができていた。トゥーリオはほとんど下がらなかったので、実際はディフェンスは1人少ない状態だったにもかかわらず。

 いずれにしても、日本代表は、アジア圏である以上、こうしたチームと戦い、勝っていくことが、アジアにおいてはある意味義務付けられているレベルにある国といえる。それに、日本は苦しみながら、これまでそうしたチームから、きちんと得点し、勝ってきている。けれど、いつもそうとは限らないし、オシムがジーコよりも良い監督とみんなが思っていたとしても、ジーコ時代に勝ったチームに負けることだってありうる。だからこそ、こういうアジア勢との戦いは難しいものがある。ブラジルだって、同じ南米のチームには、何度も対戦するから、格下のチームに敗北もしている。日本も「格下」相手に敗北することだって、何度も戦うからこそ、この先ないとは言えない。今日のイエメン戦というよりも、これからの日本代表の評価を形成する過程で、こうした論議は起こるだろうが、まずはその初戦の義務をきっちり果たした今日の試合は評価してあげたい。

 

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