２人のエース

俺は「エース」を二人知っている

　　何か不器用で

　　嫌そうな顔もするし

　　なんかいつも不機嫌だ

　　人の話を聞いているようで聞いてない

　　でも

　　そのエースはいつもひとり

　　ひとりで走る　　
　
　　ひとりで考える

　　マウンド上でエースは孤独

　　ひとりなのは

　　自分の考えを曲げたくないのではなく

　　孤独の辛さを知っているから

　　人を寄せ付けない空気

　　伝令に行ってもよそを向いていて

　　足元やボールを気にする

　　自分の世界に入ってこられることは

　　自分の弱さを見られるということ

　　負けたくないんだ

　　相手に

　　自分に

　　マウンドから降りると

　　２人とも熱い野球小僧

　　誰よりも声を出し

　　いつも前のめりで試合を見ている

　　２人のエース

　　ひとりは大学生活最後のリーグ

　　もうひとりは浪人生活を乗り越え、この春公式戦初登板

　　スパイクよりも

　　ぼろぼろのトレーニングシューズの方が

　　よく似合っている