NPBが目指すべき形 ドラフトと閉鎖型モデル(その3)
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DIME
2007年02月02日 04:41 visibility342
小難しい話にお付き合いいただきありがとうございます。
ほんとは全体的なモデルに関しての話をとりあえず全部終わらすべきだと思うのですが、その2で話しました「MLBの存在によって閉鎖型は選択不可能」という部分に関してもうちょっと説明が必要かなぁと思いました。
なぜかって言えば、これからの論理展開は「閉鎖型を志向するのは自滅行為なので200%やってはいけない」前提で進めますので、そこは理解しておいていただけないと論旨が進んだ後で閉鎖型前提の選択肢をあげてくる人が後を絶ちません(これもまた飲み会の席の話です)。
んで先日の話で書いたことをまとめれば
「閉鎖側モデルには外側に世界があってはいけないにもかかわらず、MLBがある限りNPBはその原則を絶対に守れない。それでも閉鎖型を成立させるにはMLBの存在を無視するか存在をつぶすかだが、ファンに認知された時点でNPBが無視するのは不可能(というか無意味)。MLBと対立するのは資産規模・ビジネスモデルの差を考えるとバンザイ突撃に等しい。」
ってことになります。
たぶん疑問に思われるところがあるとすれば「外の世界があってもいいんじゃないのか」って事だと思います。対決しなくても無視しなくても放置しておけばすむんじゃないかと。
実際にそういう考えで、NPB側が無視するという対処で済ませることは可能です。ただそうであったとしても実際には何の解決にもなりません。外の世界があるにもかかわらず閉鎖型モデルを志向し続ければどうなるか。
先日はNFLを例としてあげましたが、NFLの知名度を考えればわかりにくいと思いますので、今日はドラフト制度でできるだけ具体的に説明してみたいと思います。
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さて、ドラフト制度ですがここではもしNPBが閉鎖型モデルを志向すると仮定した場合について考えて見ます。
現実にはFA制度や収益分配制度との兼ね合いがありますので絶対にそうはならないのですが、とりあえず「現実」を無視して「理想状態」下にあると仮定した場合(具体的には全球団の収入・経費・年俸が同一で、全ての選手評価金額が選手の実力と完全一致し、全ての選手が最も評価額の高い球団に在籍している場合)は「完全ウェーバー」がもっとも単純かつ理にかなっています。
もちろん何度も言うようにドラフト順位はそのまま実績と絶対に比例しないのでその時点で既に完全ウェーバーをしてもそれだけでは戦力均衡の達成は100%無理です。ただそういう事実はビジネスモデルを語るにあたっては考えても考えなくても同じなので無視します。
ではNPBが完全ウェーバー制度を導入したとしましょう。それによって少なくとも“入団時点の”戦力分配が均衡されることになります。
これで閉鎖型ビジネスモデルにおいて一番重要な条件を満たすことができるようになります。とってもいいことです。
ただこの「いいこと」だというのはリーグの観点から考えたものです。選手側からすればどうでしょうか。
ご存知のとおりドラフト制度というのはそもそもが戦力均衡ではなくまずその第一義は「新人獲得費用の高騰を防ぐため」に導入される制度です。
っていうことは選手側からすると、自由競争だったらもっと稼げたかもしれない機会をリーグ側の一方的な事情(戦力均衡)で失っていることになります。機会損失しているわけです。
にも関わらず、NPB(を始めとしたいくつかのプロスポーツリーグ)では選手側とすれば損にしかならないこの制度を選手が受け入れています、何故でしょうか。
それはNPBに入れてもらわなければ選手はそれ以上の機会損失をこうむるからです。そもそも入れてもらえなければ稼げないんです。
これがリーグ側の圧倒的な強みであり、リーグ側が自分たちの事情による不利な条件を選手側に強いる事が出来る理由です。
プロスポーツ選手というのは一種の特殊技能者になります。 彼らはその特殊技能をどんな仕事でも発揮できるわけではありません。どれだけ優れた特殊技能があろうともその技能を仕事(=お金)に結び付けられなければ何の意味もありません。
プロ野球で言えば、どれだけ野球がうまかろうとも野球を仕事にしなければ、野球がうまいことでお金を稼ぐことは出来ません。
イチローが会社員をしていたらどうでしょうか、どんだけ野球がうまくても給与には無関係ですよね。彼なら他の職種でも稼げるかもしれませんがそれはあくまで彼の個人的資質であり野球の技能に根ざしたものではありません。
そして野球を仕事に出来る場所というのはNPBにしかありません(ここ嘘です)。自分の特殊技能を生かすためにはNPBに入れてもらわなきゃいけないわけです。
ここまで書いてくればお分かりいただけるかと思います。今野球でお金を稼げる場所はNPBだけではありません、MLBがあります。ここが「閉鎖型モデルには外側に世界があってはいけない」ところです。
「内側の社会(NPB)に入るためには、この条件を呑んでね、入れないと君も稼げないだろ?」とリーグが不自由を強いたときに「だったらその社会(NPB)じゃなくて、こっちにもう1つ稼げる社会(MLB)があるのでそちらにいきます」って選手に言われてしまえば不自由を強いてしまえるだけのリーグ側の強みがうせてしまいます。
リーグは選手という商品無しには成立しません。その商品の独占販売力を持っているからこそ商品(を販売する会社)に対して強く出れるのです。
ただこの独占販売は独占販売する権利を商品側から買い取っているわけではないのです。ただその商品を売ることの出来るお店(リーグ)がNPBしかないから強く出れるわけであって、もしお店が2つ出来てしまえばその強弱は一気に逆転してしまうんです。
お店を1つしかない状況にすることで、商品側の持っている「独占販売権」を逆にお店側にもたらす。その権利があることで商品側に不自由を強いることができる。不自由を受け入れさせることが閉鎖型ビジネスモデルが成立するために必須条件なのは既に述べてきたとおりです。
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ではもっと具体的に話します。
皆さんご存知いつまでたっても騒がれていて可哀想な 某S投手(W高校、W大学進学予定)がいますね。Sくんということで斉藤(仮名)くんにでもしましょう。
この斉藤くんが順調に成長して大学を卒業する頃にはメジャーでも活躍できるだけの投手になったとしましょう。既にメジャースカウトも視察しており、全くありえない話でもないと思います。
もちろん単純に戦力だけでなく日本市場に対する強力な広告塔という観点まで含めればこの調子であるならば本当にありえる話です。MLBではルーキーがいきなり活躍することを期待しているわけでもないですし、非常に可能性は高いと思います。
ここで斉藤君の前には2つ選択肢があるわけです。
1、選手側に不利な条件を受け入れてNPBに行く。
2、選手側に不利な条件のないMLBに行く。
仮定したとおり、MLBに行ったとしても十分活躍が出来ます。 そのときに斉藤くんが不利な条件付のNPBを選ぶ理由があるでしょうか。NPBは「ドラフト」というハンディキャップを背負った上で、MLBより高い魅力を斉藤くんに提示できるでしょうか。
っていうか提示できなければ彼はMLBにいってしまいますから、絶対にそれより高い魅力を提示しなければなりません。
提示できなければ斉藤くんだけじゃなく、この2つの選択肢をドラフト指名時点で選べるような実力のある選手はすべてそっちに流れていくことになってしまいます。
つまりもしMLBのほうが魅力的だと判断された場合、完全ウェーバー制度を選択したNPBはその選択によって優れたドラフト指名前の選手を失ってしまいます。そして斉藤くんはMLBにいってしまいました。
逆に言えば、仮にNPBが閉鎖型ビジネスモデルを志向するならば、MLBより魅力的になるということが必須になります。MLBより魅力的にならない限りMLBでも活躍できるほどの能力を持った選手は最初っからMLBに流れてしまうことになります。
これはNPB側にはどうすることもできない部分です。NPBがMLBの存在を放置していたとしてもそれはNPBだけの問題であり選手が放置してくれるとは限りません、というか放置しません。なので選手が流失してしまうことは避けられません。だから放置すれば閉鎖型モデルのままでOKとはなり得ません。
ちなみに日本人の好きなところでこういう部分において先日小笠原選手がその被害にあっていたように「無言の強制」や「群集の圧力」をかけたりするのが常套手段ですけど、私はそういうの大っキライなので、そんな行為を「魅力」などとは称したくありません。
NPBが完全ウェーバーで自由競争を除外してしまったら、いい選手であればあるほど、「売り手市場」な選手ほど自由競争の出来るMLBに流れていきます。
外側に「別の社会」が、それも内側より優れた(ここでは経済的に優れているかが重要)社会があるようならば、より自由なより得な社会に選手が進んでしまう流れは防げません。
これは経済学の問題で、努力でどうこうできるもんじゃないです、資本主義社会を捨てるとかしない限り経済原理がはたらくことは防ぎようがありません。
ちなみにMLBがNPBより優れているのは別にお金が理由じゃない、お金じゃ勝てないかもしれないけど他のものでNPBもMLBに太刀打ちできる、と考える人もいるかもしれませんが、じゃあ具体的に何で勝てるでしょうか。
これだけ多くの優れた選手がMLBにいってしまっています、それは揺るぎようのない事実です。私はNPBはMLBに負けてないと思いますが、実際のところ選手にはそう思ってはいないんだろうなと判断しています。
また日本から渡っていく投手たちが「対戦したい相手」にあげる選手たちの多く、特に中南米出身の選手は「お金重視」なわけです。彼らはNPBよりMLBのほうがよりお金を稼げるからこそそこにいるんです。
例え日本人選手“だけは”お金の問題じゃなく選手・試合の質の問題でMLBを目指すのだとしても、その選手や試合の質を高めているのはお金です。彼らが目標とする夢とする選手がお金で集まるなら結局はお金を理由にしているのと同じことです。
だからやっぱりMLBとNPBの差は本質的には「お金」の差だと思っています。
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鈴木氏が週ベ紙上のコラムで、現在の日本のドラフト制度は「閉鎖型のウェーバー部分」と「開放型の自由競争枠」が並存しており非常に問題がある、と指摘されていました。そのとおりだと思います。この並存状態は解消する必要があります。
ですが私はこの鈴木氏の記述は認識不足だと思います、私は現実にはここにもう1つの選択肢が存在していると今の状況を見ています。
つまり 「閉鎖型のウェーバー部分」と「開放型の自由競争枠」と「開放型のMLBからの獲得」の3つの選択肢があるのが現在の日本の状況であると思います。
幸いかどうかはわかりませんが、3つ目はまだ顕在化していません。ただ状況を考えれば今後数年もしないうちにこれが出来てくるのは明らかですし、それが顕在化しないとしてもそこに存在があることはずっと変わらず潜在的脅威は排除されません。
閉鎖型を志向し、開放型の穴を塞ぐのであれば、MLBの部分まで塞ぐ必要があります。しかし私はMLB側がそこを塞ぐ要求に応じることは非現実的だと考えています(後述)。
となるとNPB内だけで「閉鎖型の完全ウェーバー方式」を導入したとしても「開放型のMLBからの獲得」があるままでなんら問題の解決にはなっていません。
むしろ開放型のほうがより選手有利な条件であることは前述のとおりですので、選手側の観点からすればいい選手であるほど有利な条件を選んでいく、つまりいい選手の選択肢が全てMLBとなってしまうわけで愚策としかいいようがありません。
MLBに優れた選手が流出しないためには、NPB側は最低でもMLB並(できればそれ以上)の開放制度を維持しておく必要があります、それこそが自由競争枠のもつ隠された本質です。NPBによい選手を留めておくためには「自由競争」をなくしてはなりません。
じゃあMLBも含めて全体でドラフトにすればいいなんていう人もいるでしょうが、MLB側にそれを行うメリットが何かあるでしょうか。
現在MLB側から見れば、優れた選手がNPBに“はいってしまう”とその選手が順調に成長してもポスティングで大金を支払うか、長いFA権取得期間を待つか、の二択しかありません。
でもドラフト指名の時点で「MLBでも活躍するの確定的」なほどいい選手であれば、最初っから獲得しておいた方が、結果的に安く済むのは目に見えています。
何度も言っているように選手のレベルそのものにNPBとMLBでほとんど差がないのはもうよく知られてきていると思います、まぁ数歩引いても「最上位の資質を持った選手になってくれば間違いない」ぐらいは十分同意されるでしょう、そして日本からドラフト指名前の選手を持っていかれるようになるにはそれで十分すぎる認識です。
MLBからすれば「ドラフト指名前の日本人選手を自由に獲得できなくなる」という条件にはまったくもってメリットがありません。
メリットのないことを競争相手がしてくれる、なんて虫のいい話が達成されることを前提にビジネスを考えるぐらいならむしろ考えてないほうがマシだということに異論はないと思います。
もちろん「NPBの保護のため」なんてのは理由にならないですよ。彼らからすればNPBが日本で行っている役割をMLBでちゃんと果たしますと言うだけです、むしろそうしたほうがNPBもっている日本市場を奪えるんですから。
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っていうことでドラフト制度を素材にして、NPBは閉鎖型モデルを選択してはならない(ってかできない)事を説明してきたつもりですがお分かりいただけたでしょうか。
ここでは具体的な話をするためにドラフト制度に絞って話しましたが、「外側の世界があるのに閉鎖型モデルを志向するのは無理がある」のは別にドラフトに限った話ではありません。
ただこの無理が顕在化するのは閉鎖型が「選手に不利を強いる」側面がある以上、選手関連の部分でそうなることが多いです。
例えばFA→MLB移籍という部分で移籍元球団に流出の補償が全くないことなども「外側があるのに無理に閉鎖モデルをやっている」ことになります。
ってまたそれも話し始めれば長くなってしまうのでまぁ暇な方は考えてみてください。
閉鎖型モデルを選択するのが無理があるということがお分かりいただけたでしょうか。
そして閉鎖型を選択しないということは閉鎖型のために必須条件であるドラフト制度や他制度も選択しないということです。
「閉鎖型モデルはだめだけど、ドラフトはOK」みたいなのは根本的におかしい事をわかっていただければと思います。
よくある言葉ですが「税金は安く、行政サービスは厚く」というのは根本的に無理な相談です。税金という収入なくして、行政サービスという支出はできません。「給与は下げるけど、仕事は増やす」って言われてるんです、成立しえません。
関連する日記の最初に述べましたが、矛盾を主張するなとは思いません、個別にミクロを論じればたいて矛盾は出ます。ただ同じ事を言うにしてもこれじゃあ「税金は安く、行政サービスは厚く」って言ってるなぁと自覚している人と、その自覚もなしにそんなことを言っている人には、イタイ人かそうでない人かという越えられない壁がそこにはあります。
だからやっぱり、NPBの問題においてもどこが矛盾してくるかは自覚しておいた方がよろしいかと思います。イタイ人よばわりされないためにも。
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- 事務局に通報しました。
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