【NPB】 MLBとNFLの収益分配制度

  • DIME
    2006年12月10日 15:58 visibility7550

このあたりは本来専門分野でもないしまだまだ勉強中のところなので私はえらそうなことを書ける身分ではないのですが、あまりに勘違いしている人が多すぎるのでMLBとNFLの労使協定とそれに伴って成立している収益分配制度について書きます。


まず一番大きな誤解ですが、収益分配制度は「共存共栄」という目的のために作られている制度ではありません。収益分配制度とはリーグを単一の事業体(シングルエンティティ)とみなしてリーグ全体の利益最大化という目的を達成するための制度の1つです。

一緒じゃないかって思われるかもしれませんけど、微妙に違います。共存共栄の制度という人の多くはは共産主義制度に近い感覚で富める者から富まざる者への利益の再分配制度であるかのように言っていますがそうではありません。

現在収益分配制度を使用して成功しているスポーツリーグでは、決して富まざる者への救済制度としての収益分配制度があったから成功しているのではなく、努力では埋められない差(フランチャイズ都市の規模など)を平均化しその上で努力をしている者が成功する制度として存在しているのです。

つまりどこが違うかというと、共存共栄ならば全ての参加チームが恩恵を受ける制度であるのに対してシングルエンティティでは全体利益最大化を目指した結果として努力をしていないチームが共存できなくなることは厭いません。むしろ利益の最大化を阻害する要因が消えると歓迎されるでしょう。

手段と目的がごっちゃになってはいけません。「リーグの発展」が目的であって「収益分配制度」は手段です。「リーグの発展」のために「収益分配制度」が有益であることはあっても、それは「収益分配制度」があれば必ず「リーグの発展」につながるということではありません。現在巷にあふれる多くの文章はこの点を追求することなく、収益分配すればリーグが発展すると勘違いしすぎています。

例えばMLBの旧協定(今年の12/19までの協定)ではこの部分に不備があったために努力をしていない球団が分担金を受けることで黒字になり、努力をしている球団が分担金を負担した結果として赤字になってしまうという逆転現象が起きていました。

旧協定では過去3年間の営業収入平均の多寡によって比例配分をしていました。となると営業収入を減らしても分担金収入がそれを上回ればトータルでの球団の最終損益はプラスになってしまいます。

よくMLBではトレード期間ぎりぎりになると大物選手が若手有望選手とトレードされたりすることがあります、それもこの制度によるものの1つです。

ある球団がもう今年はプレーオフ出場は無理、収入もあがっていないっていう状況のときにどうするか。まずチームの主力である高年俸選手をトレードに出します、その分総年俸=経費は下がります。主力選手がいなくなったので当然チームは弱くなり、収入はますます低下します。ところが収入が下がった分収益分配制度で受け取る金額は増加します。

「経費削減+分配金」 が「低下した収入」よりも多くなってしまうと、結果としてはチームにとっては収益が増加することになります。球団経営から見ればチームが弱いほうが儲かるのです。

つまり収益分配制度が存在することによって、努力をしなければしないほどチームの収益があがる構造が出来上がります。

それではいけないということで、新協定ではこの分配比率を決める元値を「過去3年間の売上げ」から「売上げ目標」に変えました。そうすることで営業収益を下げることが最終損益をあげることにならないように改善しています。


つまり収益分配制度が正常に機能する為にはどうならなければならないのか。単純に収入の少ないチームに多いチームから配分するのではなく、収益をしっかりあげる努力をしているチームに配分したり、努力が足りていない事が原因で収入が少ないチームには配分をしなかったりするようなストッパーが必要です。


NFLの場合はその関連するビジネスの利益のほとんどがまずリーグにプールされます。そのうち50%がまず各チームに均等配分されます。ここまでがチーム間格差是正のための措置です。

けっして下位チームに多く配分することで格差是正を図っているのではありません。リーグ全体の収入の多くを均等配分する部分で格差是正を図っているのです。

残り50%はどうなるかというとその約半分が留保に回された上(つまり貯金です)で残りが健全な経営であると判断されたチームに対して配分されます。確か入場料収入がリーグ平均の80%以上であるということだったかと思います、ホームキャパシティや地元マーケットの差も考慮に入れますが。

つまりNFLの場合では安易に収益を上げていない球団にお金が渡らないようになっています。収益分配制度はリーグの平均化には貢献しますが、あくまでそれから先は単純に赤字チームに配るのでなく努力しているチームほど獲得できるわけです。結果としてずば抜けて強いチームは出ない代わり、万年下位チームは存在することになります。

例えば今のセリーグで考えた場合、もちろん入場料収入はわからないので、この日記で書いたホーム球場の稼働率を参考にすると6球団の平均稼働率は73.95%、この80%は59.16%です。これに対して下位3チームはいずれもこの数値を満たしていません。この場合は努力不足とみなすほうが妥当ではないでしょうか。


とは言えNFLのやっているようなリーグ全体の収入の多くを一括したうえで均等配分するということをそのままNPBでできるかというと絶対に出来ないでしょう。

なぜなら収入の多くを均等配分する形で現在成功しているのは、NFLやMLSなど現行リーグ成立時点からリーグが1つの企業であるという意思の元で成立しているリーグだけだからです。むしろ欧州サッカーリーグやMLBなど歴史的にチーム→リーグという成立過程を経てきたリーグは制度が無いか非常に緩い制度になっています。

本質的には均等分配制度というのは努力に見合った結果を得られない不公平な制度です。それを不公平じゃなくさせるためには特殊な状況が必要です。その特殊な状況が「各チームが同じ位置からスタートしている」ということです。それがあったからこそNFLやMLSのような特殊な成功例は生まれているのです。あくまで限定された状況下での成功例であってNPBでは参考になりません。 


大規模な均等分配制度というのはリーグを1つの企業体としてみて全てのチームが経営努力に対してリーグという観点から同列に評価されるからこそ成立しえます。NPBやMLBのように個別の球団が独自に経営努力をしてきて個別に経営努力の差による収益の差を得てきた歴史をもつリーグでは、均等分配制度はそれまでの球団の努力の差を評価しない不公平な制度になってしまいます。それではむしろリーグ全体の発展のためには逆効果にしかなりません。

これはスポーツリーグに限った話ではありません。

例えば東アジアでEUのような経済共同体を作りましょう。つきましては地域格差をなくすために日本から資産を回収して他の東アジア地域の開発に回します。

そんなこと言われたら日本はどうしますか、いいえ日本は自分たちだけで頑張りますって必ずなるでしょう、なってくれなきゃ国民として困ります。 

何故EUの場合は成立したか、格差があっては成立し得ないと知っていたからです。それはEUが格差の少ない国だけで始まり、格差是正されてきた国から順番に加えていることからも良くわかります。それでも格差が多少残っているとそれが原因で特に犠牲を強いられる側から反発が出ます。欧州憲法の批准などでそれが顕在化しているのがよくわかるかと思います。


ではMLBでは均等分配が行われていないかというとちゃんと行われています。ただMLBの場合は分配の意図が「各チームのフランチャイズ都市のマーケット規模の是正」にあるのであれば「各球団が地元から獲得する収入」のうちの3分の1ほどを回収した上で均等配分すれば目的は果たされるはずとされていて、結果的に均等配分の金額はNFLほどリーグ全体の収入に占める割合は決して多くありません。

何故この程度の事しか出来ないかというと既に球団の経営規模に差があるからです。既に格差ができあがった社会に無理矢理共産主義を持ち込むとどうなるか、富める者が亡命をする事になります。

例えばプロ野球でこれが起きた場合どうなるか、ゼロからスタートするならともかく既に事業が安定している(=ブランドを確立している)球団にとって見ればリーグを離脱するリスクは非常に低い(リーグが変わろうがチームにブランドがあればファンは付いてくるので収益はあまり変化しない)ので、巨人・阪神を始めとした自力で黒字化している球団は努力してきた球団だけで独自に別リーグを作るでしょう。

そして本来ならば分配金を供出してもらうはずだった側が存在しなくなったリーグは赤字企業だけで赤字を分け合うことにしかならず、均等配分したとしてもそれは繁栄にはつながらず結果としてリーグは衰退・消滅します。

MLBでも同じように収入の大きな球団はそれだけの努力を払ってきた結果で収入を得ているのでありそれを尊重しないのは逆に不公平であるということがわかっているからこそ、最低限の均等分配しかしないのです。

では逆に何故最低限だけでも均等分配が実現できるかというと、これを行うことで戦力がある程度均衡化されればリーグが活性化し、リーグ全体の利益が拡大し、その拡大に伴って自球団の収益が分配でもっていかれるよりも増加し、トータルで見れば自分の球団の利益にもなると思うからこそ出来るわけです。 

あくまでNPBも含めた歴史的経緯があるリーグに後付で収益分配制度を当て込もうとする場合は「最終的にどの球団も利益が拡大する」という理由付けが必要です。

NPBでも既に格差が大きくある事を考えれば現実的に可能なのはNFLのような大規模な均等配分ではなくMLBのような緩い均等配分でしょう。





繰り返しますが収益分配制度が成立するためにはその前提条件として「全ての球団が健全な経営努力を行っていること」が必要です。この健全な経営努力というのは黒字経営をしているかという意味ではありません。経営拡大の努力をしているか、チームの資産価値を増大させる努力をしているかということです。

収益分配制度というのは赤字チームの救済のためにあるのではありません、むしろ赤字チーム救済という形にすぐになってしまうのでそうならないようにしなければなりません。あくまで努力はしているがマーケットが小さいなどどうしようもない理由のために出来てしまう差に苦しんでいるチームを救済するために存在するものです。

そんなこと当たり前だろうと思われるかもしれませんが、では現在のプロ野球でそれが成り立っているでしょうか。いい選手がフリーエージェントになってそれがチームの強化ポイントに合致していたとしても獲得しようとしない多数の球団。あまつさえチームを強化しようと努力している球団に対してそれが悪いことかのように言い出す風潮。

差が出来ているから魅力がなくなっているなんて言い出す人もいますがたとえそうだとしても非難する相手が逆です。努力してきた球団と努力してこなかった球団があってその中で努力した球団だけが強くなっていった歴史を踏まえないのは馬鹿げています。
ずっと走り続けた球団と、彼らに引っ張ってもらってきた球団には差が出来るのは当然です、その差が出来たのは自分の足で走ってこなかった球団です。現在のプロ野球にこれだけ差が出来た理由は上位球団に比べ下位球団の努力が不足し、かつ努力しなくても上位球団のフリーライダーとなることで生存できるビジネスモデルであったことです。
差が出来て魅力を失っていると認識している人は、出来た原因を下位球団に求めなければ差の解消には繋がらない事が自明であることも認識しておいた方がよろしいでしょう。

金がないから選手獲得できないのではありません、選手獲得という金を得るための努力・先行投資を怠っているからチームに魅力が無くなって、お客さんを呼べなくて金が無いんです。努力の先に金は生まれます。努力していないでおいて金を得られれば改善するのになんていうのはロクデナシの言い訳と変わりません。

むしろそういう状況下で収益分配制度を無理矢理導入すればどうなるか。努力する者ほど、努力した結果収益を上げた者ほどバカを見るリーグになります。全てのチームが努力をしなくても勝てるようなリーグになれば畢竟そのリーグは衰退します。 さすがに共産主義社会の末路を知らない人はいないのでなぜ衰退するかを述べるまでも無いと思いますが。

収益分配制度を導入するのであれば、その目的が戦力均衡にあるのではなくリーグの拡大のためにあるのだということを忘れてはなりません。リーグを拡大するためには戦力が均衡しているほうが望ましいのです(この点についても必ずしもでなく、実際は閉鎖型モデルの場合のみ)。手段と目的を取り違えてはなりません、戦力均衡はリーグ拡大という目的のための手段です。

当然ですがもし戦力均衡がリーグ拡大という目的に適さないのであれば、それは戦力均衡をするのは間違っています。闇雲に戦力均衡だけが一人歩きしてはなりません。


私は収益分配制度はプロ野球にも導入しなければならないと思っています。日本の場合は一部地域に人口と経済が集中しているので地方にもチームを設けるにはフランチャイズ格差の是正としての収益分配は必要だと考えています。
ただ正しく導入するためにまず間違いなく必要なのは強化に積極的なチームに対する正当な評価とチーム強化に対して消極的なチームに対する正当な批判です。

どのような球団姿勢が本当の意味でプロ野球全体にとって望ましい球団姿勢であるかをファンは認識しなければなりません。全ての球団が健全な経営努力をしている状態になってから導入しない限り収益分配制度は薬ではなく毒にしかなりえません。

収益分配制度を主張する多くの人が巨人だけが収益を寡占しているからと理由を述べますが、努力をしてきた球団が収益を多く上げるのは当然のことです。

さきに示したように巨人のホーム稼働率はこれだけ観客が減ったと騒がれている今年でも阪神とほぼ変わりません。広告収入や放映権料収入が他球団よりずば抜けて高いのはそれだけ巨人という球団がブランドイメージの拡大を行ってきた結果です。何もほうっておいて今の巨人になったわけではありません。

他チームから選手をかき集めるのも、親会社が優先的に放送するのも球団のブランドイメージを高めるために行っている努力でありなんら批判されるものではありません、MLBの球団などは逆に自らマスコミを用意している球団だってあるのです、親会社がマスコミだからというのはただの逃げ口上です。

他球団が努力を怠り、巨人だけが努力をしてきたことが結果として巨人が優先的に報道されることを生み、偏向報道をしているかのようになっていただけです。

読売系列ならともかく他マスコミが巨人中心の報道姿勢をとってきたのは何故ですか。「ライバル会社の宣伝部門」である巨人にそう要求されたから?ありえない。自分たちのライバル企業の宣伝部門に頼まれてそれを呑むわけがないでしょ。

そういう報道傾向にあったことをどう受け取るのかは人それぞれなので自由だと思いますが、そんな事をすればライバル会社を利する事になってしまうにも関わらず、「ライバル会社の宣伝部門」をそれでも報道してきた事が巨人がやったことだとか巨人の責任であるなんていうのは私にはどう考えても理が通らない事だとしか思えませんね(笑)

ライバルを利することになるとわかっていても巨人の報道しか出来なかったのは巨人しかマスコミの希望を満足させられるだけの商品となっていなかっただけです、他球団の努力不足です。
他に商品があれば誰が報道しますか。今の状況見ればわかるでしょ、ようやく他に移ったんです。問題はその他がNPB内の他球団でなくMLBや他スポーツに奪われていることです。
ここまで巨人のせいですか?そういう事にしておくのは勝手ですけどどこに問題があるか本質を見極められないのはNPBにとって損失にしかなりません。

批判すべきはその努力に対してフリーライドするだけで自助努力を怠ってきた球団です。それらの球団が足を引っ張っているのが今のプロ野球の現状です。

まずそれらの球団が自分の足で立ち自分で動くようになってはじめて収益分配制度を導入する意義があります。現在のように一部稼いでいる球団に寄りかかった状態のプロ野球のままで収益分配制度を導入すれば逆によりかかりがひどくなり、寄りかかられた球団が共倒れするか、共倒れする前に逃げ出すか。どちらにしろプロ野球は崩壊します。

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