坂の上の雲はつかめたか

 千舟町二丁目バス停から乗車した伊予鉄バスの車中。みめ麗しき女性が会話をしていました。他の人の話を聞くのはお行儀が悪いのですが、狭い車内聞くとはなしに聞こえて来ます。


 「昨日も行ったの?」


 「うん」


 「好きなんだ~。そんなに面白いの」


 「そうだよ。昨日は勝てそうだったし。やっぱりそこに見に行かないと」


 「趣味なんだ~」


 「初めて観に行った時勝ったから、やっぱり勝つと楽しいし、昨日なんか一万人も来たんだよ」


 大意このような会話でした。彼女達は愛大農学部前バス停で下車しましたからきっと愛媛大学生なのでしょう。


 


 29日は、松山広域市町デー。13000人の動員を目指し、入場料金も500円と格安に。


 このような企画をすれば初めてスタジアムに足を運ぶ人も多くいたはず。この時にクオリティの高いゲームをしたならば、たとえ結果がスコアどおりの1-2で終了したとしても、再度足を運んでいただける事になるでしょうに、いかんせんジャッジがすべてをぶち壊しにした感があります。「サッカーってこんなものかと」心証を悪くしたのではないかと他サポながら少し心配。


 


  ゲームといえば、バルバリッチ監督の巧妙な罠にはまってしまった甲府、積極的なプレスと果敢なカウンターに翻弄されまくりで自分達のペースがつかめない。そしてCKを与えてしまい杉浦のヘッドで先制される。(30日愛媛新聞20面の写真は素晴らしいもの)


         


 


  それでも前半のいい時間、低いニンジニアスタジアムのゴール裏からは誰の得点か判別できなかったが、マイクのヘッドで同点に。(この時はゴールを確認するまで一瞬の間があった)


  一進一退の好ゲームを予感させつつも、一万人の期待を裏切ったのが、バルバリッチの退席。ジャッジにエキサイティングしたのか、ここから両チームとも冷静さを欠き始めていく。けだし冷静さを欠き始めたのは主審かもしれない。


 後半パウリーニョ、そしてこぼれ球に反応したマイクとことごとくバーに嫌われ得点できない。更に悪いことに片桐、信泳、内山、更には保坂と立て続けにイエローを貰う始末。全く冷静さを失ったのはバルバリッチの呪いか。それは愛媛にも言えること。だんだん動きが緩慢になり甲府の時間もできてくる。


 


 第四審判の掲げたボードにはアデッショナルタイムは3分。時計もなく時間がわからないニンジニアスタジアムでは残り時間の目安となるもが何もない。残り時間は少しずつなくなっていく。


 その中生れたFK。それにマイクが巧く合わせ、サイレントムービーのように音もなく、派手さもなく低い位置へとゴールに吸い込まれる。


 再び訪れる一瞬の静寂。そしてゴール裏のサポーターが最前列に詰めかける。


 ♪マ・イ・クゴール ララララララ~マイクゴールララララララ~ マイクゴールラ~ラ~ラ~ララ~ラ~♪


 エンドレスに響くマイクのチャント。そして長いホイッスル。


 


 結果、それほど巷間流布されるような力の差なぞなかったわけで、勝ち点1を2点上乗せしたか、失ったかの差は単に勝ちたいと思うその意識の差。


 


 司馬遼太郎の言を借りるなら曰く、


「そのチーム史上類のない幸福な楽天家達の物語である。やがて彼らはJ1昇格という途方もない大仕事に無我夢中でくびをつっこんでゆく。楽天家たちは、前をのみ見つめながらあるく。登ってゆく坂道の青い天にもし一朶(いちだ)の雲が輝いているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。」(坂の上の雲あとがきより)


 


 引き分けとなるべきゲームを勝ちにするのは昨年までできなかったこと。ようやく輝いている雲をみつめられる頂にたてたようです。


 


 きっと、バスの中の愛大生も、スタジアムに足を運んだ、松山、伊予、東温、松前、砥部、久万高原のみなさんも青い天にかがやく雲をみつめる坂を登り始めているにちがいありません。

































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