
★白球、天を衝く 第4球〜ルール〜★
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鷹乃廉
2009年06月24日 11:44 visibility126
眠いです。忙しいです。暑いです。扇風機壊れました。
どうしようq(T▽Tq)(pT▽T)p
第1球 〜始まり〜 第2球 〜合宿所〜 第3球〜初練習〜
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辟易とする缶詰電車を降り、人波を掻き分けながら改札に向かって全力疾走。現在の時刻は八時二十七分。あと三分で教室まで辿り着かなくてはならないが、ボロい癖に乗車数だけは多いこの駅から学校までの距離は約800m。徒歩にして十二分、全速全開で二分五十秒。教科書の類は教室に常備して軽量化を図っているが、練習ユニフォームと弁当が詰まっている鞄を持ちながらの中距離走を朝からするのは堪える。
人通りが比較的少ないのと、道が平坦な事だけが救いだ。細かいサイドステップを駆使して駅前の大通りを駆け抜け、細い裏道に入る。この近道を利用して通学するのはウチの学生だけ。その裏道を抜けると緑豊かな学校への直線道路。ラスト200mで始業の鈴が空に響いた。
でもまだ大丈夫。一限目の生物の先生は本鈴がなってから教員室を出る。校門に立っているゴジラみたいな顔した教育指導の先生に30m手前から挨拶し、立ち止まることなくトップスピードのままその脇をすり抜ける。
「待て、コラ!」
後ろからゴジラの咆哮が聞こえた気がするが、完全に無視を決め込んで走る。一旦抜き去ってしまえば見えるのは後姿だけ。遅刻寸前に坊主頭で駆け込む野球部は何人もいるから野球部の誰だかまでは特定できないだろう。後で何か言われても知らぬ存ぜぬを突き通せばいい。
革靴に見せかけた真っ黒のアップシューズを下駄箱に放り込み、最初の三歩で上履きに履き替え階段を四階まで一気に駆け上がる。一段飛ばしで駆け登り、手すりを右手で掴みそれを支点にし廊下に飛び出すと、先生の後ろ姿が見えた。こういうとき、階段から遠いクラスは得である。自分はD組なので80mはある廊下の真ん中で先生を追い越し、教室に滑り込んだ。
出席簿に遅刻の記しさえ付かなければOKだ。
一時限目が終わると、休み時間に弁当を半分食べる。
二時限目がおわると、休み時間に残りの弁当を全部食べる。
三時限目が終わると、休み時間に購買のパンを買って食べる。
四時限目が終わると、柔道場に行く。
五十分間の昼休みは、学校からグラウンドまでが離れているため朝練ができない野球部にとって大切な素振りの時間になっている。
昼休みの体育館は解放しているので人が多く素振りをするには危ないので、誰も使っていない柔道場を借りている。柔道場までの道中、剥き出しの木製バットを片手に持った坊主数十人の集団をみてしまった一年生は、こちらと目が合うと脅えた表情で道を譲ってくれる。見慣れていない学生にとっては、討ち入りに向かう赤穂浪士をみるような気分なのだろう。全員の手にはすぐにでも使用可能な凶器が握られているのだから、道端で座り込んでいる不良学生よりもある意味恐怖かもしれない。
昼練では各々持参したバットで五百回を目標に素振りする。投手陣は素振りする者もいれば、シャドウピッチングや普段なかなかできない牽制球の練習をしている者もいる。
自分は素振り専用の1200gのマスコットバットを使っているが、三年生の先輩はさらに金属の錘を装着して振っている人もいる。レギュラーの三番打者ともなるとそれで素振りができるのかと感心した。
五限目、古典だの科学だの良く聞こえていない。食べて運動した後の貴重な休息の一時である。
六限目、授業は十五時丁度に終わるのだが、その三十分程前から体が起き始めてくる。授業終了五分前、教科書ノートを机の中に片付け、鞄を握り教室後方のドアを開けておく、これで戦闘準備完了。
終業の鈴が鳴った途端に野球部全員が蜘蛛の子を散らすようにして廊下に飛び出す。この瞬間から部活開始だ。
「野球部!まだ授業終わってな・・・」
最後まで聞く必要もない。貧弱な数学科の先生の説教より、腕力に物を言わせた先輩の説教の方が万倍恐い。
階段から遠いクラスは不利だ。どうしても余計な距離を走らなきゃならない。前方には階段に飛び込む野球部の姿が見える。登校した時と同様、今度は一段飛ばしで転がり降り、革靴に似た運動靴に履き替えグラウンドまで走りだす。本鈴が鳴っているのは十五秒だがそれが鳴り終わる前には学校の敷地を飛び出している。
「失礼します!」
前を走る先輩を追い抜くときの下級生は必ず挨拶しなければならない。そして上級生より先に部室に到着し、着替え終えてグラウンドに出て、練習の準備をしなくてはならない。
5kmの山道を走って登り、着替えて練習の準備をして、十五時三十分に練習開始である。これに間に合わなかった部員は誰であっても罰として、腕立て三百、スクワット三百をしてから練習参加となる。
正直、かなりキツイ。しかもこれを見張っているのは監督で、十五時二十分に到着の電車でやってきて、オートバイでグラウンドまでくる。途中で監督に抜かされたらその場で罰決定である。今のところはまだないが、実際何分か早く監督がやってきたときには全員が罰の時もあるらしい。
野球部に入部して二週間、新入生の練習はロードワーク三週(24km)と時間一杯まで筋トレである。当初二十数人いた部員の半分は、このロードワークに耐えきれず口から何かを出してへばって辞めていった。今の新入生は十三人、一日目のロードワークで最後尾を走りリタイアした関取こと赤山が奇跡的に残っている。彼は未経験者で以前は剣道部だったらしい。自分も含め中学野球部でない者は三人。陸上部の自分と、剣道部だった赤山と、卓球部だった太郎の三人。なぜ三人目だけ太郎なのか?
それは彼の苗字が水島で、先輩と同じため一年生同士でも呼び捨てできないから。
野球部には守らなければならない、幾つかのルールがある。
その一つが先ほどの練習時間のこと。
二つ目に挨拶。先輩の後ろを通る時、グラウンドに入る時、部室に入る時、また出る時は、一度立ち止まって
「失礼します!」
と挨拶しなければならない。止まらずに歩きながらするとボークとなり上級生から鉄拳制裁である。
三つ目は準備と片付け。一年生は練習後、グラウンド整備とボール磨きをしなければならない。内野手の一年生はグラウンド整備、外野手の一年千はボール磨きと言った具合である。
四つ目、、言葉使い。一人称は『自分』若しくは『私』以外認められていない。先輩の前で「俺〜」なんて使おうものなら左ストレートが飛んでくる。
あと暗黙の了解で返事は「ハイ!」だけ許されている。上級生に対し「でも・・・」「それは・・・」等の言葉を使う権利は与えられていない。
練習後、上級生がいなくなったグラウンドでは、合宿所の一階で外野組が練習球を一つ一つ丁寧に磨きながら、日頃の先輩への愚痴を言い合う。そしてどういう訳か、内野組はグラウンド整備しながら〇ーニング娘。の歌を全力で数人が合唱している。外野組から見ると、なんとも楽しそうで羨ましい。
そして自主練習と雑務を終えた一年生は、全員一緒に山道を下り同じ電車に乗って帰る。
・・・続く
★白球、天を衝く 第5球〜合宿〜★
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- 事務局に通報しました。
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