
目指すべき方向が間違っているポスティング問題
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舎人
2013年11月28日 02:26 visibility1644
巨人は井端に続いて片岡もFAで補強をしようとしています。このことに思うものが無い訳がありませんが、今日はその前にポスティングについて少し話をさせていただきたいと思います。
1998年から始まった「日米間選手契約に関する協定」、いわゆるポスティングシステムですが、問題点が多く、2012年限りで失効しています。そのことで新しく制度の更新をすべく、NPB、MLB、そして、それぞれの選手会が話し合いを続けてきました。今までは入札によって最高入札額の球団を決め、その球団が移籍希望の選手の独占交渉権を得るというシステムでした。ただ、これではあまりに入札金額が高騰するということでMLBが難色を示し、その改正案として、入札をして最高額の球団と2番目の球団の中間に額を妥結額とする新システムが決まりかけていました。ところが、NPBの選手会が、それでは移籍を希望する選手には何ら得るものがないということに問題を提起します。そのことを日本国内で話し合っていたのですが、選手会が折れる形で新システムを受け入れることを決めます。しかし、日本国内でもたもたしていると米球界では時期を逸したということで、この新システムの話を白紙に戻す通知をして来たのです。そこで現在NPBの関係者がMLBの事務局を訪れ、再度交渉している最中とのことです。おそらくこれでさらに入札額が低く抑えられるような話が出て来ることと思います。そして、日本球界は足元を見られるような形で、その妥協案を受け入れることになるのだと思います。
しかし、これによって得をするのがどこで、損をするのがどこかということを考えなくてはいけません。このポスティングシステムを例えると、NPBの球団は牛や馬を飼育している牧場、MLBはそれを買い付けに来る家畜商。自分のところで飼育した牛や馬を競りにかけるのがポスティングということです。その競りで一番の入札額を出した家畜商に、牧場では育てた牛や馬を売り渡し、見返りとして入札額を手にするということ。そのシステムが変わるということは牧場の手にする金額が目減りするということです。つまり選手を送り出す球団が手にする金額が減るということで、選手が損をするとか得をするとかの話ではありません。今回のポスティング問題は田中将大のメジャー挑戦と一食卓に報道されていて、よく事情を知らない人は、まるでアメリカ側が無茶な要求をしているような印象を受けるかもしれません。しかし、本当に田中をメジャーに挑戦させたいなら、楽天が田中の保有権を放棄し、自由契約にすればいいのです。要は現在田中を保有している楽天球団に入るお金があるのかないのか、多いか少ないかということで揉めているということです。しかし、そもそもこのように選手を家畜の競りのようにしていることに問題があるのです。
なぜこのような変な構図が生まれたかというと、日本国内の球団同士のFA移籍には見返りが発生するのに対し、NPBとMLBの間で公正なFA移籍のルールが整備されておらず、日米間では移籍に伴う見返りが発生しないことにあると思います。したがって球団としては選手が米球界に挑戦するとなると、選手がFAを取得する前にポスティングによって競りにかけて売却にかかるのです。
私はポスティングシステムが導入されたのは仕方ない部分があったとは思っています。しかし、それは自分の球団さえ損をしなければいいといった志の低い‘さもしさ’を感じずにいられません。選手が流出することによる球界全体の後退という事実があるということを、スター選手のメジャー挑戦という光で覆い隠してはいけないと思います。
今回のポスティングシステム見直しは田中将大をメジャーに送り出すための風が吹いた末、慌てて形にしている感じですが、私はこのシステムは田中を最後にして新しい日米間の選手移籍のシステムを模索すべきだと思っています。それは単純に日米間でも日本の球団同士やアメリカの球団同士のように、見返りの発生する選手移籍のシステムを構築すべきだと思うのです。メジャーの選手間の移籍は非常に複雑で、選手の交換トレードや金銭などの他に、ぜいたく税の納税や、FAの時はドラフト指名権の譲渡などが絡んできます。さらにはルール5ドラフトなどもある。だから、それをそのまま日本球界に導入することはできません。また、日米間で選手交換のトレードなどがあれば、外国人枠やFAの取得期間などの問題も発生します。また選手会も黙っていないでしょう。しかし、だからと言って、そのまま日本球界が受け取るのが移籍金だけというのは、後退はあっても発展にはつながりません。また、メジャー球団においてもこのポスティングシステムは競りを制する資金力に恵まれた球団だけが恩恵を享受できるということで、戦力不均衡の原因つながる不公平感を生んでいるのです。このあたりの問題点を汲んで時間をかけてシステムを練り上げて行くべきだと思います。
最後に、以前の日記でも書きましたが、日本球界の本来目指すところは、そのスタート地点で大正力が遺訓としたように「米球界に追いつけ追い越せ」だと思います。理想は日本球界をトップ選手たちが自らのアスリート魂を満たすことのできるレベルの高い魅力的なものにして、メジャーと対峙することを目指さないといけないということです。たとえそれがはるか遠い目標であったとしても、日本球界の総意で、少しでも米メジャーに近づく努力をしなくてはいけません。ポスティングシステムとはその志を最初から放棄し、自らを米球界の牧場であると名乗ったような屈従的な制度です。そのことを球界関係者たちは意識して欲しいと思います。
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