チャップマンの169キロに思うこと アメリカの方が球速が速く表示される理由(下)
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舎人
2010年10月22日 01:31 visibility1692
白夜書房から出ている雑誌「野球小僧」は、
松坂フィーバーに日本中が盛り上がっていた1998年の秋の創刊で、
ドラフト前に野球を当時としては斬新な多角的観点から編集したカルト的雑誌でした。
なにしろ当時の野球ファンのほとんどがプロ野球か、
甲子園のアイドルにしか関心がなかった時代、
無名のアマチュア野球の選手を紹介したり検証したりするのページが32Pもあったのです。
そういったことに関心があったのはごく一部のドラフトファンの人たちだけで、
一般の野球ファンに受け入れられ、採算が取れるかどうかは定かではありませんでした。
したがって、次の号を発刊するかどうかも売れ行きが良かったらというあやふやなもので、
ようやく第二号が発刊されたのは、翌年の六月頃のことでした。
今でこそきっちりと隔月刊になり、さらに姉妹誌の「中学野球小僧」や
「高校野球小僧」などが発刊され、この「野球小僧」は白夜書房の看板雑誌になった訳ですが、
創刊当時は実験的というか、ベンチャー的雑誌だった訳です。
しかし、当時のものと現在のものを比較すると、
どう考えても当時のものの内容の充実ぶりに驚かされます。
古今の選手に対する探訪やインタビュー、野球の技術論から野球好きの著名人によるコラム、
そして、ドラフトやアマチュア野球選手の記事の数々、
これらのものは全て現在の野球小僧でも行われているものですが、
当時は関心の高い順にどんどん紙面に載せることができたのでしょう。
興味をそそられる面白い記事がたくさん載っています。
今のものは同じことを特集できない辛さがあるのでしょうか。
どうしても関心の薄いものが特集になってきている気がします。
もちろん今のものも、さらに多角的観点から野球を楽しめる方法を創造している点で、
素晴らしい雑誌であることには変わりなく、私は創刊以来毎号欠かさず購入しています。
さて、その「野球小僧」の創刊号に“野球力学講座”というものがあったのですが、
この中で小岩利夫さんという高校の先生が、野球の謎について力学的に解説していました。
その中に“アメリカに行くと球が速くなる力学的理由”というものがあります。
この本の出た平成10年当時、野茂に続き、伊良部や長谷川、吉井といった日本人投手たちが、
次々と海を渡り始めた頃でしたが、彼らはほとんどの場合、
日本にいた頃よりストレートの球速がアップして周りを驚かしていました。
その謎を小岩さんは、このコラムの中で3つの力学的理由で説明しています。
それを要約すると・・
その1 使用するボールの大きさの違い
日米とも公式球の規格は球の周囲が22.9〜23.5cmと決められているが、
日本のものは企画の範囲の小さい値に近く、アメリカでは大きい値に近い球が使われている。
つまりアメリカの使用球の方が日本の使用球に比べて幾分大きい。
大きい球の方が空気との空気抵抗による摩擦が大きくなり不利な気がするが、
この摩擦そのものは 非常に小さいもので、実際には球速を妨げるほどの影響はない。
投球に対する抵抗は、球の周囲に作られる薄い空気の層(境界層)によって決まる。
実は形が大きい方が境界層が剥がれにくく、 球速を妨げにくい。
したがって、抗力が小さくなるため、アメリカの使用球の方が、球速に有利となっている。
その2 ボールの球表面にある皮の違い
日本のボールは表面のきめが細やかで、ツルンとした牛革を使っているが、
アメリカは同じ牛革でも表面が粗くカサカサしたような乾いたものを使用している。
日本のツルンとした皮の方が、抗力が少ないように思えるが、これは逆で、
アメリカのカサカサした表面の粗い皮の方が抗力が小さい。
硬式テニスの球は表面がフワフワとした毛のようなもので覆われているが、
これが球面の境界層を剥がれ難くし、抗力を小さくしているのである。
また、ゴルフのボールの表面にある凹凸のディンプルも同じ理由で、
以前はディンプルのないツルツルの球を使用していたが、
表面にキズを入れて使うとよく飛ぶことがゴルファーの間で知られるようになり、
現在のようにディンプルを入れたものが使用されるようになった。
これもディンプルによって境界層が剥がれ難く、抗力が小さくためである。
その1と2のまとめとして、
野球の球に縫い目があるとないとでは、球速に大きな違いがある。
縫い目がなければ、球表面がツルンとして境界層が剥がれやすく、
抗力が大きく、球速を妨げてしまうのである。
アメリカの硬球は、日本のものに比べて少し大きく、表面がザラッとしているために、
抗力も小さく、スピードを妨げ難い。
この使用球の違いが、アメリカに行くと球が速くなる力学的理由としてあげられる。
その3 気候の違い
アメリカに比べて、日本の湿度は高いが、空気中の水分が多ければ多いほど、
抗力が大きくなり、球速は妨げられる。
乾いた空気の中では、空気の粘性も小さく、境界層も剥がれ難く、抗力も小さい。
したがって、日本より湿度の低いアメリカで投げた方が、球速が増すことになる。
このように小岩さんは、つまりは使用球や気候の違いに原因があると、
“アメリカに行くと球が速くなる理由”を、力学的に解説しています。
これが正しいことなのか間違ったことなのか科学に疎い私には分かりません。
しかし、一応なるほどと思わせるものはあると思います。
この使用球や湿度の問題によって日本とアメリカとではどの程度差が出るのでしょう。
私が思うに5km差があるかどうかではないかと思います。
前回話したとおり、渡米した日本人投手は、平均球速という点では、
日本にいた頃に比べて3〜4km程度しかアップしていません。
問題は最高球速が軒並み上がっていることが問題なのです。
球場やスピードガンの問題、マウンドの問題、そして使用球や気候の問題、
それらのことが咬み合わさって日本にいた頃よりも最高球速がアップしているのでしょう。
結論として・・
もしも、チャップマンが日本に来て、日本の使用球で投げたとしたら、
おそらく169kmなんて球速表示は出なかったのではないか?
もちろん世界最高球速にケチを付けるつもりはありませんが、
5km減として神宮で投げたとしても164km程度ではなかったかと推測します。
逆に日本人最高球速保持者の由規が向こうに渡って、
最も球速表示に有利な球場で投げたとしたら、
+5キロとして166km(103マイル)を記録しているかもしれません。
来年からは日本でも使用球が変わることになります。
もしかしたら、アメリカ並みの球速アップがあるかもしれません。
しかし、縫い目の問題、球表面の問題、等々、
全くアメリカで使用している球と同じになるかどうかは分かりません。
今度の使用球の変更について、どんな球になるのか注目してみたいと思います。
(了)
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