(小説)ある日の物語1

  • spa
    2011年11月17日 13:31 visibility373

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達也は自宅から自転車で15分程のところにあるコンビニエンスストアでアルバイトをしている。目的は別にない。家でごろごろしていても親がうるさいし、小遣いにも限りがあり、それならば自分でバイトでもして遊ぶ金の足しにでもすればいいやという程度の軽い気持ちで始めたものだった。

 

16歳。高校一年生の達也にとってはこれが人生で初めてのアルバイトだった。アルバイトとはいえお金を得るということはそれなりに大変で楽ではないと達也は思っていたのだが、いざ始めてみるとこのコンビニでのバイトはそれほど大変ではなかった。やることと言えばお客が来たらレジに入るのは当然だが、それ以外はジュース類やお菓子類などがなくなったら店の奥からそれらを持ってきて商品を補充する。あとは立読み禁止の紙が貼ってあるのに無視して立読みを続ける生意気そうな高校生を追い出す、手が空いたら店頭の掃き掃除をする、そんなものだった。このコンビニエンスストアは駅に近い場所にあるので電車が来れば降車した人がそのまま店に流れて来るのだが、周囲には他にいくつものコンビニがあるので他の店に流れていく人の方も多い。電車が来ない時間帯は暇で、電車が来た時もそんなに大変でもないという、要はそんなに繁盛していないコンビニエンスストアだった。

 

達也は確固たる目的があってバイトしている訳ではないので、バイトに行くのが億劫になると、よく店に電話をして休んでいた。休む理由は自分でも覚えてないくらい適当なものだったが、店長も別にそれを怒るでもなく

「うんうん、いいよ。了解」

といつも快く了承してくれていた。

だから達也にとっては行きたい時には行って、休みたくなった時には休むという、とても都合の良いアルバイト先だった。

 

そんな達也がバイトを絶対休まない例外の日がある。それは達也の一つ上の高校二年生の弥生と同じシフトに入る日だ。

達也は弥生に好意を抱いていた。弥生は特別な美人ではなかったが、おっとりとした雰囲気と、一つ下の達也を弟のように思っていたのか、不意に達也の髪の毛を直したり、ポケットにそっと差し入れの飴を入れてくれたり、弥生にとっては大した意味はなくしている行為だったかも知れないが、その度に達也はどきどきしていた。だからシフトが弥生と同じ時間に入ると、その時は達也は嬉しくて絶対に休むことなく出勤していたのだ。

 

ちなみにこのコンビニエンスストアには達也や弥生の他にも高校生や大学生、また学校に通っていない、いわゆるフリーターといわれる人達ら数名の同年代のアルバイトがいた。そのアルバイトの中でも唯一、達也と同じ高校一年生の里帆という子がいた。里帆は目鼻立ちがはっきりしていて男子アルバイトの中では一番人気だった。

 

「里帆ちゃん、かわいいよね~」

「店長、俺を里帆ちゃんと同じ日のシフトに入れて下さい!」

 

他の男子アルバイトが言っているのを達也はよく聞いていた。

確かにみんなが言うように里帆は美人だと達也も思う。そこに異論はない。だが達也は、そんな里帆よりも、おっとりしていて和風

 

 

 

 

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