(小説)ある日の物語 4

  • spa
    2011年12月01日 11:14 visibility101

部屋へ上がるとさっきまで里帆と一緒にいた男と、さらにもう一人の女性がいた。

 

 

その女性の顔に達也は見覚えがあった。

 

その人は達也とか里帆がバイトしているコンビニにもよく来ていたし、厳密にいえばそこ以外の場所でもよく知ってる人でした。

 

達也と里帆より1歳上だというその女性。名前を亜美といった。

亜美はいわば里帆のメインの仕事の同僚で、この豪華なマンションの部屋も会社の寮として彼女達に割り当てられ、里帆と亜美は2人でここで共同生活をしていたのだった。

 

そして、さっきまで里帆の彼氏だと思っていたその男、裕司も同じ仕事仲間で、このマンションの違う部屋に住んでいるということだった。

年齢も亜美と同じ17歳だ。

 

そして、亜美の彼氏がこの裕司だという。

 

達也が亜美を見て、やっぱり、と思ったのは
一度、バイト先のコンビニに亜美が来た時、達也は亜美にジロジロと観察されていた気がしたからだ。おそらく里帆から達也のことを聞いた亜美が、自分の目で達也を品定めしにきたといったあたりだろう。

 

亜美もそして里帆も、そのかわいらしい顔からは信じられないくらいの慣れた手つきで、プカプカとタバコを吹かしていた。

 

ま、現実なんてこんなもんだよなと思いながら、里帆と亜美と裕司と達也。4人はまたくだらない話で盛り上がった。

 

4人のそれぞれの成り行きだとか、宮沢りえのバストの話でも盛り上がった。

 

そしてこれはあくまでも達也の推測だが、達也以外の3人は仕事上の付き合いは別にして、本当の意味での友達や知り合いが東京には誰もいなかったのではないか。

だから自分のような存在はある意味この人たちにとっては貴重な存在なのかもなと達也は感じていた。

 

しばらく絶えない話で盛り上がっていたが、翌日も早くから仕事があるという亜美は、少しでも寝なきゃと、裕司と共に自分の寝室へ消えていった。

 

楽しかった宴が突然終わり、取り残された形となってしまった里帆と達也の2人は、それまでの喧騒とはうって変わって静かになってしまった。

 

やや、気まずい空気のなか沈黙を破るように

 

 

「どうする?帰る?」


と里帆に聞かれた達也は、自分でもびっくりするくらい自然に

 

「一緒にいる」

 

と言ってしまった。

 

無意識に出てくる言葉というのは、自分の意思とは別に勝手に出てくるものだと達也はその時に知った。
この時点ですでに、達也は好意を抱いていた弥生への思いも吹き飛び、達也の気持ちの中はもう里帆に支配されてしまっていた。

 

 

(あれ?なんで俺、こんなこと言ったんだろう?)

 

 

自分でも自分の気持ちが分かりきらないまま、でも真っ直ぐに里帆の目を見て達也は言った。


そして里帆も達也の気持ちは感じ取ってくれたと思う。

 

「うん。じゃ、いこ」

 

里帆は達也の手を引いて、2人は里帆の部屋へと溶けていった。

 

 

・・・・・・・


そして、12時までにレッスンに行かないといけないという里帆と共に、達也はマンションを出た。駅まで、くだらなくも楽しい話をしながら一緒に歩いた。一夜開けて、何だか昨日まで、いやたった数時間前までとはまるで世界が変わったかのような錯覚を達也は覚えていた。

 

駅の改札まで里帆を送って

 


「じゃあ。今週は火~金で店にいるから」

 

と達也は軽い感じで言ったが、それには里帆は返事をせず、少し寂しげな顔で

 

「さようなら」

 

 

と言って達也に右手を差し出したのだった・・・













 

 

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