洲崎球場のポール際
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Mr.black
2015年01月30日 11:51 visibility1937
野球場好きの私にとって非常にありがたい本が最近出版されたので飛びついて購入。あっという間に読破しました。
それがタイトルにそのまま使った「洲崎球場のポール際」という本。
講談社出版。全269ページ。価格は1,500円(税別)。
著者は森田創(もりた そう)という御方。
プロの作家ではなく、これが初めての著書という一私人です。
1936年(昭和11年)、プロ野球専用球場として作られた木造の洲崎球場。
「海辺にあり、満潮時には海水が流入した」
「スタンドをカニが這っていた」
「グランドの土を掘ったら貝殻が出てきた」
など今日では考えられないようなエピソードを持つ野球場。
その一方で巨人・阪神の伝統の一戦が始まった伝説の野球場でもあります。
しかし間もなく開場した後楽園球場にプロ野球が移行するとあっという間に衰退。(←後楽園の開場は昭和12年9月)
実働期間は年度で見ると3年ですが、月日で換算すると昭和11年11月末から昭和13年6月上旬までの僅か1年7ヶ月という短い寿命だった洲崎球場。
その後、日本が戦時下に入ると歴史の闇に消え、ほとんど資料も残っていない「幻の球場」です。
( ↑ 洲崎球場跡地。2009年6月訪問して撮影。)
それを作者は長い時間をかけて根気よく克明に調べ上げ、当時を知る人々への取材も行い、幻だった球場に実体を与えています。
その労苦には本当に頭が下がります。そして「自分も過去洲崎球場については個人であれこれ調べたものの、中途半端で穴だらけだった。それをこの本で全部補足してくださった」という感謝の気持ちでいっぱいです。
そして単に洲崎球場だけでなく、発足前後のプロ野球(職業野球)の歴史、関わった様々な人物、洲崎周辺の街の様子も克明に書かれているので、戦前の一歴史書としての価値もあると思われます。ご興味のある方は是非ご購読ください。
私的に特に価値があると思われるのは以下のとおり。
1. これまでほとんど表示されなかった洲崎球場のスペックが航空写真からの測量でおおよその距離(両翼・センターまでの距離)を算出してあること。またそれに基づいて紙製の模型を作製して写真掲載してあること。模型は建築士が製作。実寸の200分の1ということ。
2. 完成当初の球場の造り、その後のスタンドの変遷、観客の推定収容数が調べてあること。
3. 通常「洲崎球場」とだけ表記されるが、実際には「洲崎大東京球場」あるいは「大東京球場」という名称だったこと。←球場正面に「大東京球場」という文字看板があり。ちなみにこの球場は本来は「大東京軍の本拠地」として作られたが、当時はフランチャイズ制が確立していなかったので実質はリーグ全体で共用していた。(※)
4. 当時実際に球場で観戦した存命者の生の声を著者が聞いたこと。これによりスタンドの熱気、観客の言動、球場周辺の場景、人間模様などが実感できること。
5. 海水が入って来る時の様子が証言により把握出来たこと。今までは単に「海水が入って来た」としか分からなかったのが、実際の様子がイメージ出来たこと。
6. 年度ごとの周辺地図を調査し、「いつ解体されたか分からない」洲崎球場の消滅の時期をある程度絞り込んでいること。
などなど。
(※) 大東京軍はその後「ライオン」→「朝日」→「パシフィック」→「太陽ロビンス」→「大陽ロビンス」→「松竹ロビンス」、と目まぐるしく球団名が変更。その後大洋ホエールズと合併。現在の横浜DeNAベイスターズの「傍系」となっている。
ちょっと話がそれますが、私はこのラボーラで野球場に関する日記やレポートを過去たくさん書いています。それを読んだメンバーさんの一部から「球場に関する本を書けば?」と言われたことが何度かあります。その御提案に対してはいつも「私のような中途半端で浅い調査しか出来ないうえに文章が拙い人間には無理です」、と答えてきました。
今回この本を読んで改めて実感しました。
「書物にするにはこれほどの時間と労力をつぎ込まないといけない。洲崎球場が現存しない古い野球場ということを割り引いても、たった一箇所の調査ですらこれだけの労力が必要。自分ごときには到底不可能」、ということです。
何はともあれ、この書物に出会えたことは非常に幸運でした。
ほとんど実体が把握出来ていなかった洲崎球場がかなり「リアルなイメージ」になりました。
これは本の裏表紙。写真は洲崎球場の前に立つ水原茂氏。
文字が途切れていますが、球場正面には右読みで「大東京球場」と看板が上がっています。
そして水原氏の足元がぬかるんでいるのがわかりますでしょうか?光っている部分はどうやら水が浮いているようです。
この写真が洲崎球場のグランドがどんな状態だったのかを物語っています。
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