【NPB】 中村の件
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DIME
2007年01月14日 08:42 visibility99
正直言って、中村側に問題が無いとは思えない。とは言えこれほどまでに批判されるほどのことをしているだろうかって気持ちのほうが大きい。
そう思っている人はあまりいないのかなぁと思っていたが、日記を見るかぎり同様の意見を持っている人もけっこういて安心した。
この問題はいろいろと感情が入り乱れ、そのためにこじれてしまっている。
これを理解するためには、まず内容を簡素化することで問題の本質を再確認する必要があるだろう。
ではまず問題を一番簡潔に説明してみる。
「球団と選手間での来季契約に関して合意できなかった」
とりあえずこれが今回の問題、で終わってしまってもしょうがない。
じゃあ何故合意できなかったか(意見が一致しなかったからだ、なんてのは言葉遊びなので置いておく。 )
「球団側が野球協約に定められる減額制限以上の減額を提示した。」
「選手側は減額制限以上の減額は選手の同意が必要なためそれを拒否した」
参考:
プロ野球協約第92条 (参稼報酬の減額制限)
次年度選手契約が締結される場合、選手のその年度の参稼報酬の金額から左記のパーセンテージを超えて減額されることはない。
ただし、選手の同意があればこの限りではない。
その年度の参稼報酬の金額とは統一契約書に明記された金額であって、出場選手追加参稼報酬または試合分配金を含まない。
(1)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円を超えている場合、40パーセントまでとする。
(2)選手のその年度の参稼報酬の金額が1億円以下の場合、25パーセントまでとする。
今回の問題の本質はここだろう。
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個人的にこの「減額制限」という制度に関しては、プロ野球界のためには間違いなく撤廃すべき条項であると考えている。(これに関しては後述)
ただこれはこの際問題ではない。現実として現在のプロ野球協約ではそのように定められているのである。であるならばそれに従わなければならない、それが法であり法治社会の前提条件だからだ。
そう考えたときに本質的に悪いのはどちらか。協約で定められている内容にもかかわらずごり押ししようとする球団側である。どれだけ球団側の主張に正しさがあろうとも、正しければ法を無視していいというものではない。
これは「危険運転致死傷罪」 の成立経緯を考えていただければわかるかと思う。
運転を生業にしておきながら常態的に飲酒運転を重ねていた人間などはっきりいって殺人者と変わらない、未必の故意をもって殺人者としてあつかってしかるべきぐらいだと考える。
しかしだからといって「法律では上限懲役5年(仮)ですけど、特例として死刑」なんていうことをするわけにはいかないのである。それはつまるところ刑法の無視であり法治国家としての基盤を失わせることになる。
法律がそうなっている以上、それに基づいた求刑をする検察にも、それに基づいて判断する裁判所にも問題はない。逆に言えばそれに対してどれだけ検察や裁判所を批判しようとも問題の解決にはつながらない。
これは制度の不備であり、 不備のある制度を制定している側の問題であり、放置している側の問題である。けっしてその制度を活用している側の問題ではない。
だからこそ法制度が改められ、危険運転致死傷罪が制定されたのだ。
今回の件で言えば、協約上そう決まっている以上は中村側が「同意できない」といったのであれば、球団側は同意がない以上減額制限を越えた年俸を提示してはならないはずだ。
「同意があれば減額制限できる」というこの「同意」のレベルが、今回のように制限を越えた金額を提示された上での同意だとすればそれは単なる「契約合意」と変わらず、記述内容は有名無実化している。
協約にわざわざ記されている以上そう解釈するよりも「減額制限を越えた金額での交渉をすることの同意」と解釈する方が自然であり、今回それがないにもかかわらず提示する球団側は協約違反だと私は考える。
にもかかわらず、球団側は「合意が必要なはずの金額」を強硬に要求し続けた。これは球団側のほうが雇用主として選手側よりも権力を持っているという立場の悪用だ。
清原が「納得できなくても折れなきゃいけないことがある」というがこれは明らかに間違いである。そういう日本的な「事なかれ主義」が球団側の増長を招き、プロ野球界における球団の支配力の今以上の拡大を招く。それはプロ野球界にとって絶対に利にはならない。
もちろん1選手として「野球をする」ということだけに目標を持っているのだとすれば清原の発言も理解できる。ただそれはある意味「自分が野球を出来れば球界の問題は関係ない」とも取れるようなスタンスでありはっきりいってカッコ悪い。
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個人的に言えば今回の問題の発端は昨年契約した時点であると思う。
その時点で中村が手首に大爆弾を抱えていることは周知の事実であり(2度ほど手術していたはず)、古傷を抱えている選手であるならばもちろん契約の前に徹底したメディカルチェックをする必要があるのではないか。
にもかかわらず、古傷はシーズン開幕早々に再発しそれをかばって出場し続けたことで悪化した。はっきりいってそれを見抜けなかった球団のメディカルチェックにそもそも問題がある。
古傷が再発するかもしれないというのは、ベテラン選手という商品の抱える避けようのないリスクだ。商品に付随するリスクを事前に計算した上でそれを査定にこめておくのは球団側の責任だろう。
自分たちで怪我の程度をしっかり把握もしないでおきながら、故障を再発させた選手に対して「公傷にはあたらない」というのは球団側の自助努力の不足であり、今後も同じような事が繰り返される気がしてならない。
メディカルチェックの不備を私は散々巨人に関して思わされたし(幸い巨人の場合はその不備を球団の責任と認識した対応をしてきたが)、それを指摘して巨人を批判する記事もよく見てきた。なぜ今回の中村の問題に限ってはそういう観点でみないかは甚だしく疑問である。
また2億円という年俸にも非常に疑問が残る、これは清原の2.5億も同様なのだが。
少なくとも彼らの直近数年間の実績を考えればこんな高年俸になるはずがないと思う。ただ前に日記でも指摘したように選手というのは「プロ野球というエンターテイメントにおける商品」である以上実績だけでなく人気や収益面も考えて年俸は計算されるものであると思うし、それを鑑みれば彼ら2選手に対してこの年俸を用意するのは理解できる。
つまり球団側としては中村がいることによる観客動員の増加や関連グッズの売上げなどを期待していたのであろう。だったら、である。だったらなんでこんな問題を起こして球団、選手双方のブランドイメージを損なうような事をしでかすのか。たった4000万をケチるのか。
もともとそういう観点から考えていたのであればこの問題がどれだけ収益に対してマイナスになるかわかるはずだ。それに比べれば4000万なんて生ぬるい。清原のときのように「温情査定」とか言っておいて日本人の大好きな義理人情に結び付けておいた方がよっぽど得をする。
4000万ぽっちをケチるんであれば最初っから去年の時点でシビアな年俸を提示しておくべきだった。詳しくは忘れたが中村の契約上実質的な独占交渉権を持っていたはずであり、もっと足元を見れたはずである。4000万どころか1億ぐらい少なくても契約できていたはずだ、そっちの方がよっぽど金は浮いていた。
どうもこの問題に関して考えれば考えるほど「なんで球団は去年の契約のときにもうちょっとしっかり考えてシビアな契約を結んでおかなかったのか」っていう疑問がわいてくる。
その時点で「古傷再発症のリスク」を査定にいれておけばそもそも今回のような値段になっていないはずだ。そこにそもそもの不備がある。昨年サインする時点で手首の爆弾に対して契約内容に一筆くわえておく、ただそれだけで済んだ問題である。
今年の成績に関して「この内容では40%以上の減額制限はやむをえない」とか非常にシビアな計算を示しているが、だったら最初の契約からそうやってちゃんとシビアにやっておけよと思わずにはいられない。
球団側の対応がちょっといきあたりばったりというか、なんかこう首尾一貫してないなぁってみえてしまう。
中村という選手は特にこういう金銭問題に関しては非常に「しっかりとした考え」の持ち主であるということはこれもまた有名なことであり、こうなることは十分想定できたと私は思う。
だったら最初の契約の時点で「公傷の定義」なり「減額制限の取り扱い」なりをちゃんと詰めて契約しておけばよかったのだ。
ちなみに中村の選手としての実績をして2億という金額を弾き出していたのだとすれば私はもう「あんたらすごいよオリックスさん」以外に言葉を持たない。いやオリックスの査定を見る限りそんなことはないと思うが。
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さて、今回の問題の元凶となっている減額制限条項だが、前述のように私はこれは撤廃すべきだと思っている。
選手の年俸が正しく実力や収益力を評価したものになるためには、できるだけ何の制限もないほうが望ましい。
この減額制限があるとどうなるか、球団としては簡単に年俸を上げてしまうと下げにくくなるので1・2年活躍しただけではそう簡単に金額をあげられなくなる。長期的に活躍することではじめてその選手の年俸が上がることになる。
つまり年俸を計算するときに「選手の実力&収益力」に選手年数という係数が乗算されることになる。
これが生み出すことは何か、突出した成績を残すよりも怪我なく安定した成績を残すことの方がより評価されるという現実である。ならば選手としてはどうなるか、当然目標は安定した成績を残すことにシフトし怪我をしないようなプレイにシフトするであろう。プレイは魅力を失う。
もちろん、前の日記に書いたように完全に自由化する事も逆に怪我に対する危険度が増し、同様にプレイの質が落ちるがそれに関しては故障者リストと関連して怪我人への減額にのみ制限をもたらすようにすればよい。現在の制度では怪我だけでなく単純に活躍しなかった場合まで保護されてしまっていて問題がある。
またどうしても年数が関係してくる分だけベテランは実力より高く、若手は実力より安く計算されてしまうため、ファンからみて年俸の正当性が理解しにくくなる。具体的に言えばベテランに対して「実力以上の金食い虫」みたいな批判であったり、球団に対して「若手選手をこき使っている」という批判であったり。
これらの批判は実力がそのまま年俸に反映される制度であれば的を得ているが、現行の制度下ではそうなるのは必然であり、そうでないほうがおかしいのだ。
先ほどの危険運転致死傷罪の話にもつながるが、ここでの問題は「制度」でありそれを運用している選手や球団ではない。それらを批判するのではなく、制度を批判すべきなのだ。
私はプロスポーツが発展するためにはできるだけ実績がそのまま年俸に反映される制度がベストだと思う。もちろん制度というものは何の制約もなしとするのはむしろ色々問題が発生するモノだと言うのは経験的に知られている事実であるからある程度の制約も必要だろうが少なくともこの減額制限という制約はプラスよりもマイナスに作用することの方が多いと思う。
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ただ現時点で、どの球団からも声がかからないのはある意味当然だなぁと思う。
ドラフト・FA・外国人選手などの見極めが終了し、キャンプインまで3週間を切っている。この時点である程度チームの青写真が描けていないのであればそれは決して褒められることではない。
この時点で獲得希望球団が現われないのは自然なことであるし、獲得の声を上げない球団を非難する気には全くなれない。
実績があるとは言え、ここ2シーズンはけっして芳しい成績であるとはいえない。その前のシーズンも02年をピークに低下傾向にあったんじゃないかと思う。(参考by道作氏HP)
その上で怪我から復帰しているわけでなく来季の活躍は未知数。せめてシーズン中に復帰していればまだ望みはあったんだが、契約してぶっつけではリスクが高すぎる。
少なくともそんな賭けに乗る前にもっと確度の高い方策を試すだけの時間はあったわけで、むしろこんな時期になってまでそんな高いリスクをおかさなければならないほどの賭けをしなきゃならないような未完成の編成であってはいけない。
その上たとえどれだけ安くなろうとも、現在のように好奇の目に晒されているようでははっきり言って獲得するのはリスクが高い。
プロ野球とは客商売である。たとえどれだけ実力があろうともその選手を取ることによって客の不評をかうようであれば、客商売として間違った選択には違いない。
これに関しては私は中村選手にはあまり同情できない。中村選手が一方的に悪いとは言わないがもうちょっと対応の仕方はあったろうと思う。もうちょっと考えて発言すべきだっただろう。
マスコミの加工にも大きな問題があろうかとは思うがはっきり言って主張が一貫しているようには見えなかった。球界の為とかチーム全体の為とかいう考えはあったとしても不思議ではないが、それをもっと最初から出すべきだった。また今はインターネットで直接発信できるのだから加工されない情報を提示すべきだった。
これは中村選手自身のプロモーション戦略のミスである。自分が知名度があると思うのならそれぐらいは気を配っておくのは当然なのにそれができていなかったと思う。
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- 事務局に通報しました。
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