
★ラストイニング4★
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鷹乃廉
2009年05月15日 13:11 visibility210
4球目、ピッチャーの足が上がり、左腕からボールが放たれる。
(もらった、真ん中低め!)
膝、腰、肩、腕、全身を連動させ体内に集約した力を開放し、俺は迫りくるボール目掛けて渾身のスイングをした。
が、しかし――
スイングを始めるとほぼ同時にボールが急激に沈み始める。
ここまでの3球が直球であったが故に、ストレートに目を慣らされていた。
数メートル先で起きた突然の変化に対応しきれない。
渾身の一振りだったが、俺のバットだけが虚しく空を切った。
「ストライーク!」
(変化球か、小賢しい。)
ここにきて2ストライクと追い込まれてしまった。
(こうなったら仕方がない。何が何でも次はバットに当てなければ――)
俺はいつもよりバットを短く握ると、バッターボックスの中央に移動した。
この位置からなら、どんなボールにも対応できる。
渾身の力はいらない。
強打強振の打ち方から、力を抜きシャープに振り抜く、精度重視のコンパクトな打ち方にシフトした。
ピッチャーが5球目を投げる。
(真ん中低め。ストライクか?)
この時、脳内の警報音が鳴った。
『このボールはここから沈む』
考えたわけではなかった。体が勝手に反応したと言っていい。
俺は振りかけたバットを全身で止め、ボールを見送った。
「ボール」、審判の声。
先程と全く同じ変化球だった。
(何度も同じ変化球にひっかかりはしない。)
キャッチャーが球審に、俺がスイングをしたのではないかと訊ねている。
球審が一塁審判に確認を取る。
一塁審判の腕が大きく横に開かれた。ノースイング。
さて――これでお互いに追い込まれたわけだ。 ……
著者・鷹乃廉
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