
★ラストイニング7★
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鷹乃廉
2009年05月15日 13:14 visibility110
ベンチの監督からサインを確認する。
(ノーサイン)
ピッチャーが足を上げホームに向かって投球する。
と同時に俺はリードを一気に広げる。
ボールを掴んだキャッチャーが俺の大きなリードを見て、一塁にボールを投げる。
予想できるプレイだ。悠々と塁に戻る。
「セーフ!」
(当然だ。この程度の牽制でアウトになってちゃ、ランナーは務まらない――)
アウトに出来そうで決してアウトにできない絶妙のプレイをし、針の穴ほどの一瞬の小さな隙を見つけては、相手守備陣を掻き乱す。
それがランナーである。
ベースに触れながら、もう一度監督のサインを確認する。
(盗塁)
監督もこの窮地で大胆な作戦をとるものだ。
サインを受け取った俺が冷や汗たっぷりであるにもかかわらず。
全てはこの脚を信用してくれてのサインだろう。期待に応えたい。
自慢じゃないが、高校に入ってからこの瞬間まで、1度たりとも盗塁で失敗したことはない。
百発百中、成功率100%である。
二塁に限らず、三塁だろうが本塁だろうが、サインが発動すれば全て奪ってきた。
俺は相手に盗塁の気配を悟られないよう慎重にリードを広げる。
そしてピッチャーの動きに全神経を集中させる。
どんなに細かい動きも見逃さない。
ボールに集中していると、明らかに握りを変えたのがわかった。
次の投球は間違いなく変化球だ――
このボールの握り方でピッチャーは牽制球を投げられない。
牽制で変化球を投げる投手などあり得ない。
十中八九牽制はないと踏んだ俺は、更にジリジリとリードを広げた。
あとはタイミングを合わせるだけ――
ピッチャーが足を上げる瞬間、いや、その足が地面を離れるより早く、刹那的に俺はスタートを切った。
投球は読み通り変化球。もうボールは視ない。
観察するのは捕手からの送球を受け取るため、ベースカバーに入る遊撃手の動きと視線のみ。
ボールを直接見なくとも、これだけで何が起きたか知ることができる。
二塁まではちょうど16歩。16歩目右足で踏切りスライディング。
投げられた変化球に加えて、この状況下での盗塁に虚を突かれたキャッチャーは、ワンテンポ遅れてセカンドベースに送球する。
(遅い!!) ……
著者・鷹乃廉
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