巨人の「最も若手が育ちにくい環境は勘違いだった」は本当なのか?打席年齢と塁打年齢

  • 舎人
    2016年01月05日 07:15 visibility2083
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

いつもはオフの間は何をするでもなく、ぼんやりと野球関連の資料を眺めている日々なのですが、元日早々、スポーツ報知が格好のネタを提供してくれたので、そのことで今年第一回目の更新にしたいと思います。

最も若手が育ちにくい環境は勘違いだった(2016年1月1日13時0分  スポーツ報知)
 若手がポジションをつかみかけたところで、他球団や外国から有力選手が多数加入する。巨人では、おなじみの光景だ。「若い選手がレギュラーになれそうなポジション=チームの弱点」ということだし、リーグ優勝、日本一を狙うために弱点を補強するのも当然だが、若干、気の毒でもあった。巨人は、最も若手が育ちにくい環境なのでは―。そう思っていたが、それは勘違いだった。
 若手が育ちにくいのではなく、実力なき者が、容赦なく淘汰されるというだけのことだった。この熾烈(しれつ)すぎる競争はむしろ、若手を本物のスターへと鍛え上げる、最高の環境だろう。阿部は村田真一(現ヘッドコーチ)、長野は亀井や松本哲、坂本は二岡(現2軍打撃コーチ)と、強力なライバルに競り勝ってポジションを奪った。だから、長年レギュラーを張り続けることができるのだろう。
 チームスローガン「新成」を掲げて若返りを図った15年シーズン。台頭した若手を挙げるとするなら、立岡と岡本だろう。両者とも、1軍で故障者が出た時に昇格し、起用に応え続けることで居場所をこじ開けた。立岡は8月に月間40安打をマークし、岡本はデビューから3打席目でプロ初アーチ。確かな存在感を示し、来季への期待感を抱かせてくれた。
 今オフは例年ほどの大補強はなかったが、それでもクルーズ、脇谷、ギャレットが加入した。立岡も岡本も、16年シーズンは1軍戦力としてカウントされているだろうが、ポジションを奪ったとまでは言えない。過酷な競り合いに耐える気力と体力を、どれだけ備えているか。由伸監督が就任し、チームが生まれ変わるからこそ、世代交代の象徴になってほしい。

これは選手に向けた激励の文章だったらその通りだと思う。しかし、フロントや首脳陣がそう考えているのだとしたらとんでもないこと!現在の巨人はチーム編成や起用方針が他球団からしたら特異で、選手がなかなか一本立ちできない問題を多く孕んでいることは明らかです。そんな立岡や岡本の話で全てを語るべきものではないと思う。しかし、イメージだけではなかなか本質は語れません。そこで、今回はとりあえず懸案な打者について、少しデータに基づいて事情を探ってみたいと思います。

若手の定義は難しく、通常は大卒3年目の25歳辺りがまでが若手だと思いますが、どうやら原さんは30歳前後まで若手だと思っていた節がありました。普通の球団ならとっくに坂本は中堅です。しかし、巨人では若手の代表のように扱われている。中井も大田も立岡も他球団に行ったら微妙な年齢です。しかし、彼らは巨人においては十分に若手なのです。実はこの辺りから問題は始まっているように思います。

原さんが30歳前後の選手まで若手だと思ってしまう背景には、巨人の選手の年齢構成が20代ならすなわち若手となってしまうような編成の問題点があると思うのです。次の円グラフは各球団の年齢層がどれだけ一軍で打席を与えられたかを示したものです。これによって各球団がどの年齢層のバッターを重用しているかが分かります。

















































































 




































































































































































































































































巨人は水色の25歳以下のバッターが与えられた打席数は悲観するほど悪くないものの、他球団に比べて紫色の年齢層の打席数が極めて低いのです。これは26歳〜30歳というバッターにとって最もパフォーマンスが優れた年齢層です。この年齢層が薄いということが坂本たち中堅であるべき年代が若手だと認識されてしまう原因ではないか。本来なら最もチームの主軸として働かなくてはいけない年齢層の選手たちがいるべき部分が薄いということが、巨人にとって大きな問題だということです。その原因を考えると緑色と茶色の年齢層の厚さに気付きます。この部分の年齢層の選手が蓋となって、本来なら一本立ちすべき年齢層の出場機会を奪っているのではないかということです。























































































































































注)投手の打席は除いてあります。

上の表にあるように、30歳という境目を設けると、巨人の31歳以上のバッターの起用や人数が他球団に比べて最も多いことが一目瞭然です。これは巨人というチームがいかに若手の成長を信じられなかったかを現していると思います。本来ならレギュラーの控えは育てている若手であるべきでしょうが、巨人の場合はベテランの控えをベテランにしてしまった。コマも若手起用の第一歩でしょうが、それすら補強に頼ってしまった。今までのフロントはそれを選手層の厚さだと取り違えて来たのではないかと思います。こういった数字を見ても報知の記者は「育ちにくい環境は勘違いだった」と言えるのだろうか・・

さて、巨人打線がいかに特異で危ないという話をさらに続けます。次の表は打席年齢というもので、打者の打席数を年齢でかけて、球団の全打席で割ったものです。つまり巨人でいえば打席のあった31人の打者それぞれの打席数に各打者の年齢を掛けて全て合算、最後に球団の全打席数5,020で割ったものです。
























































































































































巨人打線を1人のバッターとして見た場合の年齢ということで、これは各球団の打者の年齢構成の指標なるものです。巨人は阪神にワースト争いを演じています。ここから見えて来るものは、巨人や阪神の打線が時間切れ間近だということです。打者のピークをどこに持ってくるかにも依りますが、少なくとも年齢が高いということは、それだけリスクも高いということです。すると編成とはいつまで経ってもパフォーマンスの落ちてくる打者をどうするかが課題ということになってしまう。日本一のソフトバンクは巨人より2歳以上若い。2歳といっても小さな数字ではありません。巨人は全打席でソフトバンクより2歳以上年上のバッターが打席に入っているということだからです。

さらに話を拡げます。この打席年齢をより実戦面で影響のあるものとして捉えたのが塁打年齢というもので、昨年の夏辺りからジョン君と一緒に新しいセイバーメトリックスになるのではないかと研究しているものです。打席年齢と同じように打者の塁打数を年齢で掛けて、球団の塁打で割ったものです。打席年齢以上に打線の年齢が分かるものです。ヒットでも良かったのですが、塁打にしたのは長打をどれだけベテラン(あるいは若手)に頼っているかを表にしたかったのです。セ・リーグの表はジョン君、パ・リーグの表は私が作りました。












































































































































































































































































































































打者の入退団を加味しないといけないので、まだまだ分析不足なのですが、ここから見えて来るものは、補強などで一度打線が高齢化してしまった球団というのは、なかなか抜け出すことが出来ず、絶えず補強を繰り返してしまうということ。また、それを急激に脱却しようとすると極端に得点力を落としてしまう傾向があるということです。だから安直な補強は極力避けるべきなんです。阪神や中日は巨人より高齢化が先んじた球団でしたが、清武時代の遺産が無くなった巨人はそれを猛追しています。

特に気になるのは巨人の打席年齢が塁打年齢よりも上を行っていることです。高齢化が進んでいる球団は、次の時代を踏まえ、若い選手に打席を与えるため、塁打年齢よりも打席年齢が低くなるのです。だから阪神も中日も楽天も打席年齢が塁打年齢より低い。それに対し、塁打年齢が30歳を過ぎている球団で巨人だけが、打席年齢の方が高いのです。これはそれだけ30歳以上のバッターにチームが足を引っ張られたということを表していると思います。普通は打線が弱いから仕方なくベテランの力を借りて打線を組むものですが、巨人の場合は聖域化したベテランのために打線を組んでいたのです。少なくとも力の衰えたベテランをあからさまに外すことができずチームが振り回されたことは表しているでしょう。いかに巨人の編成がベテラン偏重で、若手の芽吹きを阻害したかということです。

とは言え、巨人も優勝争いをしなくてはいけない以上、急激に若手に切り替えるということは不可能でしょう。しかし、大事なのはフロントや関係者が、いかに自分の球団が特異で問題点があるかということを認識し、徐々にその体質改善の努力をするかどうかだと思います。

過剰な補強を止め、蓋を出来る限り取っ払い、育成をする。

このように「最も若手が育ちにくい環境は勘違いだった」の話は思うところ満載でした。この記事はあくまで若手への激励として受け止めないといけないのです。そうでないと「勘違いだった」と「勘違いしている」ということになってしまいます。それはもはや悲劇を通り越した喜劇です。ただ、ドラフトの話を作るため、毎年各選手のことを調べて思うのですが、巨人は選手の仕込みだけは少なからずして来たと思います。そのドラフト時の意図がどこかでないがしろになって来たのです。したがって、球団の方針次第で一気に世代交代できる可能性もあると思うのです。これ以上、才能豊かな選手が埋もれてしまうのは口惜しい限り。今年は高橋新監督の下、しっかりとした方針を定めチームを変えて行って欲しいと思います。

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