野球小説の難しさ
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こじっく
2010年12月07日 22:13 visibility466
(記事と写真は関係ありません)
僕は小説を読むのが好きだ。
野球を題材にした小説では村上龍さんの「走れタカハシ」と高橋三千綱さんの「カムバック」が好きだった。
「走れタカハシ」は元広島の高橋慶彦さんの活躍を描いた小説・・・と思って買ったら全然違った。
本当に、別の小説に手違いでカバーだけが「走れタカハシ」がかかってしまったのかと思いカバーを外してしまった。
ところが、読み進めているうちに面白さに気付いた。
この本は僕が初めて読んだオムニバスだった。
各作品、色んな人がいきいきと描かれていた。
人の持つ強さも、弱さも、喜びも、悲しみも、美しさも、醜さも、賢さも、愚かさも余すところなく表現されていた。
そして、登場人物は皆どこか高橋慶彦選手と繋がっていた。
どの作品にも高橋選手が登場していたわけでなかった。
作品の最後にテレビ画面に高橋選手が映る描写があっただけの作品もあった。
しかし、高橋選手が登場人物の一人として出てくる作品もあった。
そんな作品での高橋選手は小説の中にさわやかな風を吹かせていた。
僕は高橋選手が好きになった・・・と思ったら、高橋選手は1991年に我が阪神タイガースに移籍してきた。
嬉しかった。
阪神での高橋選手は若虎の手本になるべく懸命にプレーそして練習にも打ち込んだが、もはや全盛期の輝きは放てなかった。そして移籍2年目のオフに引退された。
でも、あの真摯な姿は虎ファンの記憶に確実に刻まれている。
高橋三千綱さんの「カムバック」もオムニバスだった。
しかし「走れタカハシ」と違い、全ての作品が野球選手が主人公だった。
どの物語も挫折や不条理な仕打ちを乗り越えて、自分のバットや熱投で栄光を掴んでゆく本物の男たちが描かれていた。
中でも僕は表題作になった「カムバック」が一番好きだった。
八百長事件に巻き込まれて日本球界を追われたベテラン投手がアメリカに渡り、メジャーに昇格して再びマウンドを踏む物語だ。
何度も読み返した。
何度読んでも胸が透く思いがした。
しかし・・・この「カムバック」に描かれた作品群には残念なところがあった。
全てが架空の物語であるために、主人公の選手たちが本当はどんなにすごいのか分からないのである。
と、言うのは主人公ばかりでなく実在の選手が誰も出てこないので比べようがない。
僕は高橋三千綱さんという作家が好きで、特に剣道を描いた「九月の空」なんかは今でも本棚に大事に持っている。
そして「九月の空」の方がやはり「カムバック」より好きだ。
決して「カムバック」が小説としてダメということじゃない、そうじゃなくて一般論として野球小説は「難しい」と思うのだ。
野球は筋書きのないドラマ。
だから僕らは球場に行き、あるいはテレビやラジオで試合を見る。
プレイボールから始まる無限のストーリーに胸をときめかせる。
ゲームセットの瞬間まで夢は終わらない。
一冊の小説を読むに十分匹敵する感動を、1つの試合を見るごとに味わう僕ら・・・。
実際の試合に勝る感動を与えてくれる野球小説、あるとすれば、どんな小説だろう。
是非読んでみたいものだ。
しかし、野球を題材に選んだ時点で、その作家は相当の覚悟をしなければならないだろう。
シーズンには毎日のように野球の試合を見る日本の読者を、野球と言う素材で納得させ、その上に感動させられる作品を書けるか?
フィクションはノンフィクションを凌駕できるか?
しかし、僕もいつの日か、その「野球小説」という超難題に挑んでみたいという夢を抱いている一人なのである・・・。
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