「金本・阪神 猛虎復活の処方箋」を読んで

  • 虎男
    2017年06月02日 17:51 visibility552

この本は元阪神監督岡田彰布氏が今年の3月に書いた本である。この本は簡単に読めるのだが、阪神の今現在のチーム編成に対する岡田氏の本音がたっぷり詰まった本である。これを読んで、どう感じるかなのだが、阪神の野球というよりも、野球に対して「打った、走った、捕った、投げた、勝った、負けた」程度の「表面的な感じ方しかできないファン」にとっては面白くもなんともない本であることは間違いない。しかし、元監督と言う「着眼点」そして嘘の無い「本音」、そして多くの提言がシンプルに誰にでもわかりやすく書かれていること。これは能力のない解説者では無理だろう。評論をするのに回りくどい「学術めいた表現」などいらない。それで虚飾して、自分の持っているボキャブラリーを自慢する必要など全くの「馬鹿」がやることだ。岡田氏の言っていることは理にかなっている。これだけ、理にかなっていた監督を早い段階で辞めさせる原因になったのも13ゲーム差をひっくり返されて優勝を逃した時のことだ。私はアメリカクーパースタウンと言うアメリカ野球殿堂博物館がある町に滞在していた時だった。13ゲーム差をひっくり返されるなど全く思ってもいなかったので、余裕で渡米の旅を楽しんでいた。しかし、帰国した時には、勢いは無く、岡田監督の辞任は時間の問題となっていた。

 

 

その岡田氏の金本・阪神に送るメッセージとして出した本だが、この本は辛口である。昨年、金本監督が一二軍で交換し使った選手は61名に上ったと言う。昨年、私はどんどん若手を起用する金本監督に「超変革」と言うスローガンのもと、思い切った一二軍選手の交換を「若手の底上げ、一軍の舞台を知らせるための良い経験」だと思っていた。岡田氏のように二軍監督オリックスと阪神を含め、7年間も経験した人が考えることは違う。「二軍の選手は一軍仕様になってから上にあげてやらないと、上でちょこっと使われて結果が出なくて下に戻されたら、その後、二軍でくすぶってしまう例が多い。一軍の力の差を目の当たりにして自信喪失したままになって二軍でも結果が出せなくなってくることが多い。」と言うのだ。板山、横田、陽川などの選手たちが今年一軍の壁を乗り越えて来ていない。彼らは昨年の一軍での経験をどう今年感じ取って鳴尾浜の二軍の地で鍛えなおしているのだろう。岡田氏曰く「きちんと一軍仕様にしあがった人間をあげてこないとなると、鳴尾浜では無料で見られる選手を、甲子園で他界入場料払って二軍の選手をお客さんに披露していることになる。お客は納得いかないだろう。」これも一理ある。金本監督が「チャンスを与えたのに、結果が出せない。チャンスはたくさんないんだぞ」としょっちゅう言っているのは、新聞など目を通せば簡単にそのコメントに出くわす。しかし、二軍と一軍の差は思ったよりもあるのだと岡田氏は言う。

 

さらに鳥谷と北条の話も面白かった。和田監督になってから鳥谷は打順を1番にされたのだが、それに対して岡田氏が「監督から1番の打順の説明はあったのか?」と尋ねると、鳥谷は「なんの話もありません。」と答えただけだと言う。岡田氏はこの「打順についての監督の考え」は「変更をするのであれば、理由を選手に伝えることが必要である」と言っている。理由は、変更するには「チームの打線を監督が把握していて、クリーンアップを生かすために、この打順にお前に行ってもらうのは、この打順であって、この形で打てるお前が最適だからだ」と言う事を端的に説明する必要があるからだと。私もこの点は岡田氏の言っていることに頷ける。

 

北条に関しては、1年間ショートを守れる力は無いと断言している。彼をショートにするのであれば、鳥谷をショートで、北条はセカンドにするべきだろうと説明している。北条は、曲者的な打者であり、面白い素材ではあるが、正遊撃手としてチームが安心して任せられる素材化と言うとクエスチョンマークがつくと言う。昔阪神にいた平尾のようなタイプだと岡田氏は言う。所謂「サブ」で置いておけと言うことらしい。

 

阪神球団が一番必要なものは何かと言う点で「編成部」をあげていた。阪神が編成部がどれだけ「チーム作り」に長期ヴィジョンがあるのかが疑問だと言う。まずはドラフト戦略で、今年取ったドラ1に白鳳大学の大山を

サードのポジションに適材がいないからという理由もあり取ったが、本来、投手に逸材と言われる4人ものドラ1の誰一人にも食指を伸ばさず、大山と言う無名大学リーグの選手を指名してきたことへ、日本ハムとの違いの比較を述べていた。日本ハムの編成部の強さは、数年先を見ている。そして、スカウトたちに長期にわたり有望選手に密着偵察させ、そして誠心誠意のアタックをドラフトでやっていると言う。ここ数年日本ハムのドラフトのくじ運の強さにも、編成部自らがくじを引きに行くと言う「会社の責任」をひしひしと感じると言う。阪神はくじを引くのは全て監督で、編成部は「自分たちがマスコミに追及される恐れがある」と言う「逃げ」の姿勢が顕著であることに、その差を大きくつっこんでいた。日本ハムの編成部のすごさは、糸井、小谷野、ダルヴィッシュ、陽岱鋼、といなくなっても次世代の選手を作っていると言う自信が現場とフロントが一体となっていると言う。糸井を手放してオリックスへ移籍させたのも、この阪神移籍でどれだけ糸井がこの契約の3年間に仕事ができるのか、もしかしたらひざの状態が悪いのが日本ハムはその時点でわかっていてオリックスへのトレードを刊行したのではないかと岡田氏は疑っている。そうなると3年契約を交わした糸井が、城島のように急に老け込み衰えを隠せずにいきなり引退へとなる可能性は十分ある。ここで、日本ハムの編成部のすごいところは、陽岱鋼がFA宣言した時に「卒業おめでとう」と言い放ったところだ。すでに陽には用が無いってことだったのだろう。しかも30歳と言う若さで、今年のこの陽のスタートの遅さを日ハム編成部が把握していFAに出るように仕向けたとしたら、巨人は地団太を踏んでいるだろう。FAの怖さである。

 

この本は本当に簡単に読める本である。しかし、中身は多くのプロ野球監督の経験談がちりばめられている。そして、一番面白かったのは、野村監督の下で二軍監督であった岡田氏と野村氏の「考え方の相違」である。これは読んでもらった方が良いので、ぜひこの本を買って、その部分を読んでもらいたい。しかし、野村さんの本をこれまでに読んだことが無い人が読んでも、その面白さはわからないだろう。なぜなら、野村氏がどれだけ阪神時代を「阪神の監督など引き受けなければ良かった」と言っている今日、彼自身が「二軍」と言う物を重要視していなかったことが、この岡田氏の本でわかるのである。二軍の良い素材はどのようにして育てればよいかを、野村さんのように一軍だけしか見てこなかった人間が理解することは無理だったに違いない。何しろ、自分の足で二軍のグラウンドへ行き、二軍の素材を目の当たりにして見ていなかったと言うことがはっきり書かれている。岡田氏は自分が一軍監督になったときに頻繁に二軍の素材を見に行っていたと言う。そこに「一軍仕様」の選手を二軍監督から報告される前に自分の目で見てくることで、チーム全体の展望を把握することができると言う。二軍にも良い素材がいるのをいち早く知ることの重要性を説いている。まさしく、テレビやマスコミに姿を出すよりも、自分のチームを把握することの重要だと言う事だ。

 

880円の本であるが、とても内容のある、そしてプロ野球ファンであれば、阪神のことだけでなく多くの現場や裏を語っていること。そして本音で語っている部分で80点のできではないだろうか。阪神ファンであれば、必ず読んでおいて良い本である。

 

 

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