守備力とは何か その1
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DIME
2007年10月29日 15:14 visibility577
今日あたり、チーム練習が再開されるので戦力外通告が出るのではないのかなぁとか思うんですが、無謀にも別件を書き始めたいと思います、その2まで間に他の事が入るかもしれません。
道作さんをはじめ、特にセイバーメトリクス的な考え方を知る友人・知人の間で今年のトレンドだったのが「守備力を評価する指標の作成」というものでした。
私個人としてはその2以降に書こうと思っていますがこの守備力については別の観点からの捕らえ方をしていることや、それ以上に新しい何かを作成するという創造的思考能力に欠けているという自覚があるものですからあまり積極的に参加することもせずにいました。
そんな私が我が物顔で紹介するというのもおこがましいところなのですが、今年この守備指標について非常に大きな成果が著名なサイトである野球記録あら?カルトの久保さんから発表されました。それが各選手の個人別守備位置別守備イニング数です。
これは久保さんが個人で収集した記録である分だけ記録の信頼性に疑問をもたれる可能性があるものの、その理由はむしろ記録そのものがこれまで公式記録でも発表されたことのない数字であるため公的な裏づけを取りようがない記録であるためです。
これまで日本プロ野球の長く続く歴史の中で、この守備イニングというのは完全に闇の中にありました、発表されることがなかったのです。
これを毎試合毎試合、個人でこつこつデータを収集された久保さんの努力は大きな尊敬に値します。
では、この数字がどういう意味を持つのか、道作さんの言葉を借りれば「守備イニングは打撃指標に置き換えれば打席数や打数であり、これなくして正当な能力評価は不可能である」、そんな存在です。
特にここ1年ほどで世間の野球ファンの中にも少しずつ知られていったレンジファクターなどの守備指標で評価するには絶対的に必要な数値となります。
その1ではこのレンジファクターについて紹介することで、同時に守備イニングという記録の必要性を説明したいと思います。
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そもそも、既存の公式記録では守備の結果を示す記録ははっきり言って非常に貧弱なものです。
それでもようやく今年よりNPBの公式サイトにて守備記録も示されるようになりました(パはこちら)が(それまでは公式記録の開示すらありませんでした)、出ている数字は守備機会や刺殺や補殺の回数、選手別の出場試合数、失策の数とそこから導かれる守備率、それぐらいしかありません。
指標らしい指標といえばせいぜい失策数と守備率ぐらい、しかし失策を元にしたこれらの数字は実質的にはほとんど意味が有りません。
何故意味がないのかはたくさん理由がありますが大きなものを2つあげておきます。
第一に失策であるかの認定は公式記録員が行っている、つまりその発生時点で既に主観的選択であることを免れない為記録の客観性にかけるということです。
もうちょっとわかりやすい言葉でいうと、皆さん野球を見ている中で「あれがエラーじゃなくてヒットなのか」「あれをエラーと判定されるのは厳しいな」と思ったことが多々あるでしょうし、解説者などがそういう発言をしているのも多く耳にしたことがあると思います。そういう「人によっての判断基準がまちまちである判断結果」の積み重ねが失策数や守備率でしかないってことです。
第二に、そもそも失策が少ないことが守備が上手いことと同義となるとは限らない、むしろ同義ではない可能性が高いということです。
これも言い換えますと、例えば「今のはエラーになっちゃったけど、そもそも彼じゃなければ打球に追いつくことがなかっただろう、さすが名手」と思ったことがあるでしょう、あれです。守備の下手な選手だったらそもそも打球に触ることが出来ない=エラーと判定はされない、逆に守備の上手い選手だからこそ打球に届いたがぎりぎりだったのでアウトには出来なかった=エラーと判定される、という結果が往々にして見られるということです。
以上の理由から失策を元にした守備評価では、守備の巧拙を本当の意味で明らかにすることには無理があるわけです。
そこで、アメリカで考え出された指標の1つとしてレンジファクター(RF)が有ります。計算式としては非常に単純なもので、以下のようになります。
RF=(刺殺数+補殺数)/守備イニング数*9
どういう指標であるかというのは、morithyさんのHPにて具体的に説明されてありますのでそちらも参考にしてください。
私なりに説明しますと、まず式そのものについては、ご覧のとおり選手が9イニングあたりいくつの刺殺+補殺を稼いだかという指標です。
守備そのものが下手な選手であれば、捕球や送球に失敗した分だけ刺殺数や補殺数は低下します、また同時に守備範囲が広くなった分だけ捕球や送球の数は増えていきますので刺殺数や補殺数が増加します。
また、そもそも守備の目的とは何かと考えた時に野手においては「アウトを取ること」が守備の目的といえます。守備の目的はファインプレーをすることでも美しい守備を見せることでもありません。そういう見た目の価値というのは野球という点取りゲームという本質においてはなんら価値があるものではありません。そういう意味でもアウトに貢献した数を持って評価するというのは非常に理にかなっています。
ちなみに「守備の目的は何か」という本質的命題を突き詰めて考えていくとアウトを取ることのまだ先があるのですが、これについてはその2以降にて述べたいと思います。
ただこのレンジファクターには問題もあります。この刺殺や補殺の数を競うことにおいて、選手本人の資質以外の要素による影響を避けきれないということです。
具体的に幾つかあげてみます。
1つは「チーム全体の三振数」によって影響されます。1シーズン通せばどの球団もだいたい同じぐらいの数のアウトを奪うようになりますが(延長やサヨナラなどによって多少のずれは出ます)が、そのアウトの中で三振が占める割合が多い球団はそもそもそれだけ野手のところに打球が飛んできません。今年のセ・リーグで言えば、最多は阪神の1109に対して、最小は広島の957です。約15%ほどの違いが有ります。そもそも機会が少ないのですから阪神の野手は広島の野手に比べてその分だけ補殺や刺殺の数が少なくなります。
1つはは味方投手の特性による影響です。昔の日記で書いたことも有りましたが、投手にはフライアウトの多いタイプ、ゴロアウトの多いタイプというように特徴が出てくることは統計学的に知られています、これは別にどっちが良いとか悪いとかでもなく単純な特性の違いです。特に先発投手は1シーズン投げ続ければ各球団の全イニングのうち10%を軽く超えるイニング数を投げることになります。それだけのイニング数を投げられることとなるとそれらの投手の特性による影響は避けがたく、例えばゴロピッチャーであれば内野の補殺数が増えたり、フライピッチャーであれば外野の刺殺数が増えたりする可能性が有ります。
1つはそもそも運の要素を排しきれないということがあります。当たり前のことですが、どこにどんな打球が飛ぶかというのは全ての選手でそもそも一致するはずが有りません。ただこの点に関してはサンプル数を増大させることである程度の解決を見ることが出来ます。どういう事かというと、この運の要素を排しきれないというのは打率などでも一緒です、そちらを考えていただければわかるかとおもいます。どの打者においても、対戦するピッチャーや投げてくる球種が一致するはずが有りません、それでも打席数を積み重ねることによってそれらの運の要素というものは平均化されていきます、結果数多くのサンプルを積み重ねれば運の要素、事象のばらつきというのは無視できるほど小さくなります。
余談ですが特に新しい指標が出てくるとこの運の要素を持ってして或いは過去のデータの積み重ねでは将来どうなるかなんて正しい算定は出来るはずがないという主張を持ってして、それらの指標は信頼性に欠けると言い出す人がたまに見受けられます。まぁもちろんそういう考えを持つことは否定しません。ただし、それをいうならばこれまで存在している打率や防御率をはじめ全ての指標において同じことが言えるという事実も知っておくべきです。彼らが主張する問題は統計学における帰納の正当性の問題です。それを言い出したら世の中の統計に基づくデータ、もちろんその統計の一種である打率や防御率なども含めた全ての帰納的論法を用いている主張が正当性を欠くということであり、実際問題この統計における帰納的論法はあまり問題とならないのは世の中がそれで上手く回っていることから明らかです。
以上のように挙げていけば問題が幾つか出てくるレンジファクターですが、これらの要素の多くは実際のところは過去のデータを元にして補正をすることが可能です、例えば三振の例で言えば、三振の多寡によって係数を算出しそれをかければ三振数によるブレはなくすことが出来ます。
そのマイナス部分を持ってしても、このレンジファクターは、これまでほぼ真っ白であった守備力評価という世界において大きな印をつけることが出来る大きな一歩であるといえます。これまで各個人の主観で巧拙を批評していたことに比べれば格段の進歩です。
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ところが、このレンジファクターを日本で導入するに当たって非常に大きな問題がありました。冒頭に戻るわけですが日本では個人別守備位置別守備イニングが公式記録としてどころか私的な記録としてもほぼ算定されていなかったのです。
そこで苦肉の策として、先ほど紹介したmorithyさんが行っているように出場試合数から算定することになります。ただこれだと例えば途中交代などによる守備イニングの減少などを感知することが出来なくなります。
結局、これまで出回ってきた日本プロ野球のレンジファクターのほとんどを占める「試合数を分母にしたRF」は上記であげたような要素よりよっぽど大きな数値のズレをもたらす根本的な要素でデータの信頼性を欠いていたのです。
この解決の第一歩となるのが今回久保さんが発表された個人別守備位置別守備イニングなのです。
具体的にこの発表によってどれだけ数値が変わってくるのかを、今年のセ・リーグの遊撃手を例に表してみたいと思います。
各球団ごとに、もっとも出場イニング数の多かった選手1名を選出しました。結果は以下のとおりです。
まずこちらが数字となります。RF(イニング)の高い順に並べて有ります。
その結果をグラフ化したものです。
こちらでは逆にRF(イニング)とRF(試合)がどれだけズレが出てしまうかわかるように、RF(試合)の値の低い順に並べて有ります。RF(イニング)がその順番とは全く違っているのが示されています。
お分かりいただけるように、試合を分母にするか、イニングを分母にするかによって大きな違いが生まれています。いうまでもなく実態に即しているのはイニング数を分母にしたものです。
この結果についてはいろいろと書きたい事もあるのですが(なんで梵が高いのかとか)、それは次回以降に譲るとして、ここではいかに久保さんが発表されたデータが重要なものであるかという事をまず強調したいと思います。
これまでは、例えば野球小僧の4月号において紹介されたレンジファクターのように(まぁあの記事自体は数字以前に論理展開に無理が有りましたがw)、試合数を分母にした数値しか我々は手にすることが出来ませんでした。
それがどれだけ実際のレンジファクターとズレが生じかねない信頼性の低いものだったかというのは上記の結果で一目瞭然だと思います。
この日記で少しでもこのような野球の新しい指標、野球の捉え方というものが少しでも広まってくれること、その結果、公式記録として守備イニングが公開される日の為に、微力ながら手伝いをさせていただいたつもりです。
野球というスポーツ、それに対する分析は現在のところ、その本質を見極めるどころかむしろ積み重ねってきた経験からもたらされる「常識」と言う名の鎖によって本質を見失っているようです。
上記で紹介したレンジファクターを含めたセイバーメトリクスと呼ばれる考え方は、そういう野球に対して自ら無意識のうちに縛ってしまっていた鎖を取り払い、客観的に信頼することの武器はどれなのかをまず見つけ出し、その武器で野球の本当の姿を見つけ出すため冒険に挑むクエストです。
このゲームにはまる人が1人でも増えていってくれたら良いなと思います。
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