暗黒期前夜に発刊された「巨人軍改革論」

  • 舎人
    2010年12月02日 02:54 visibility2268


































































ルーキーたちの話の残り、星野と神田についてですが、
なんとか今週中に書き上たいと思っています。
しかし、選手について書くことは事前に色々と調べなければならず、
なかなかすぐに更新という訳にいきません。
しかし、のんきなことを言っていられません。
実はルーキーたちの話が終ったら大田たち2年生や
中井たち3年生について動画まとめたり、総括しようと思っているのです。
ルーキーたちの話よりもむしろそっちの方が何倍も楽しそうです。
まだ紹介していない藤村の超偏差値の高い走塁など、ぜひ見て欲しいものがあったりします。
もたもたしていたらシーズンオフもあっという間に終わってしまいそうです。
私にしかできないこともあると思うので頑張りたいと思います。

さて、平日は例のごとく自宅を離れ赴任先にいます。
シーズンオフの間、野球がないと退屈で仕方ないのですが、
そんな夜に私は昔の野球関係の本を自宅から適当に持ってきて寝る前に読んだりしています。
今回持ってきたのは2003年のオフにベースボールマガジン社から出された
「緊急発売 巨人軍改革論」という本です。

この本の発刊された2003年のシーズンを振り返ってみると、
投手陣や守備陣の崩壊、ケガ人の続出、現場とフロントの確執など、
チームが内包していた問題が一気に噴出したような年でした。
その伏線となったのは日本一になった2002年のオフに
松井がメジャーに行ってしまった後のチーム作りにあります。
巨人は松井の代わりにヤクルトの主砲ペタジーニを引き抜いたのです。
もちろんチームの大黒柱が抜けたことによる力の低下を恐れたからに他なりません。
しかし、清原に対する気兼ねからペタジーニはライトでの起用、
それまでライトだった高橋はセンターでの起用となりました。
しかし、ほとんど素人に近いペタジーニの外野守備は、チームに亀裂を生じさせます。
ラミレスよりもさらにヒドい外野手がライトにいるのです。
これは投手陣に無用のプレッシャーを与え、精神的に相当の負担をかけることになりました。
そうでなくても弱点と言われていた投手陣は、守備に対する不安もあって、
抑えの河原を筆頭に、中継ぎの木村(龍)や久保、先発の上原、高橋尚まで、
総崩れになってしまったのです。

また、ペタジーニのライトは内野陣の調子も狂わせます。
4月13日の阪神戦、五回で交代した清原に代わって六回から元木がファーストに入ります。
するとアリアスがファーストの後方、ライトの手前のファールフライを打ち上げます。
これは通常ライトかファーストの飛球でしたが、
ペタジーニのマズい守備をカバーするために深く守っていたセカンドの仁志が、
この飛球を追いかけ始めたのです。
しかし、同じようにこの飛球をファーストの元木も追いかけていました。
運の悪いことに捕球の際、2人はモロに衝突してしまったのです!
2人ともベンチに下がりましたが仁志は足首の捻挫と胸部打撲、元木は右肩の脱臼でした。
予想外の重傷!2人とも復帰に1か月以上を要しました。
ペタジーニの外野によって一気に2人の内野手がスポイルされてしまったのです。

あの時、松井が行ってしまったのならば残ったメンバーの中から、
なんでセンターで起用しなかったのか、斉藤や鈴木がいたというのに・・
また、故障がちの清原をファーストで優先起用してしまったのか、
ペタジーニをファーストで固定した方がよかっただろうに・・
思い起こすたびに残念な思いになります。

その後ペタジーニはライト失格の烙印を押され、
主にレフトかファーストで起用されるようになります。
しかし、そうなると清原が黙っていません。
同じポジションに同タイプの長距離砲が出場を争うことになったのです。
これが若手選手同士なら競い合ってチームに勢いをもたらしますが、
清原もペタジーニも実績十分のベテランです。
チームはますます悪い雰囲気になりました。

もちろんペタジーニの獲得はチーム崩壊の決定打を与えただけで、
当時の巨人が構造的にどうしようもなくなっていたことは事実です。
ペタジーニのことがあってもなくても、いずれはこうなっていたことは予想されます。

この年の原巨人は星野阪神にコテンパンに破れ、
7月にはすでに優勝が絶望となってしまいました。
その体たらくに業を煮やしたフロントは9月9日、
新しく球団代表を交代し、フロント主導でチーム改革を断行しようとします。
しかし、これに今度は原監督が反発します。
新しく球団代表に就任した三山氏が
コーチ人事はおろか投手交代などの采配に口を出したことで、
両者の対立は決定的なものとなりました。
これは原監督の退任騒ぎにまで発展してしまいます。
この年限りで引退しコーチが内定していた川相は、
この騒ぎを見て、巨人に見切りを付け中日へ移籍してしまいました。

実力から人気まで全てが地に落ち、優勝した阪神との明暗がくっきりした年だったのです。
そんなどん底のチーム状態の時に、この「緊急発売 巨人軍改革論」は出されたのでした。




































































この本は「巨人はこうすべきだ」とか「巨人について私ならこう思う」といった
ジャイアンツについての分析や改革論について、様々な人の意見を載せています。

球界からは張本勲、森祇晶、落合博満、杉下茂、豊田泰光、江本孟紀、江夏豊
著名人からはマーティ・キーナット、徳光和夫、黒金ヒロシ、ヨネスケ、やくみつる、石田雄太
それぞれの人がチーム改革について持論を展開しています。

球界
張本氏
的確な補強が必要、守りを重視すべき。清原を切って松井稼を獲得せよ。
森氏
場当たり的な補強は止め、自分のところでしっかりと選手を育てられるチームを作るべき。
落合氏
現有戦力の競争と底上げが必要。最初からスター候補生をレギュラーに据えるのは問題。
杉下氏
投手を中心とした守りの強化。清原はパ・リーグへ放出すべき。
豊田氏
フロントも原監督も子供。この難局を巨人が変わるチャンスだと捉え、思い切って外からの血を輸血すべき。
江本氏
現有戦力をいくら鍛えても無駄、松井稼とローズ(近鉄)とクレメンスを獲得。巨人に二軍は不要。
江夏
V9の頃のような守りの野球を目指すべき。仁志をもっと重用する。清原は西武に送り返す。

著名人
マーティ・キーナット氏
回転ドアのように2、3年で次々と変わるフロントに問題あり。本当のプロのフロントを育てるべき。
徳光氏
時代の空気を全く読めていないフロントが球団を私物化しているのが問題。
黒金氏
ファンが大喜びするような選手が多く輩出されなくてはいけない。芸能と野球を切り離せ。
ヨネスケ氏
フロントを改革しGM制を導入。余計な補強はいらないが新庄は獲得。桑田の抑えで絶対に勝てる。
やく氏
原は星野監督の後の阪神監督になるべき、掛布が巨人監督となる。既存概念の破壊!
石田氏
大型補強などによって来シーズン優勝するよりも、3年後の泰然自若とした常勝チームを作るべき。

それぞれの持論にその人の個性が反映され面白いです。




































































清原の放出について改革の条件にあげている人が何人もいるのは、
それだけ当時の清原が巨人にとってストレスを与える存在になっていたかを物語っています。
もっともペタジーニと併用という不遇な起用法をされていた清原こそが、
一番ストレスを感じていたでしょう。
ライトでペタジーニが使えると判断したバカなフロントの犠牲者でした。

落合さんの意見と江本さんの意見は対極です。
落合さんはその持論を中日で実践し、見事チームを優勝に導いていますが、
当時の巨人は一軍の選手と二軍の選手の力の差が歴然とし、
ファームは人材的にも不足していましたから、
落合さんの言うように鍛え上げてどうなるものでもなかったような気がします。
逆に江本さんの意見の方が当時の巨人を考えれば仕方ないと思えてきますが、
巨人に二軍は不要との意見はあまりに刹那的過ぎます。

フロントについて改革せよと何人かの人が述べていますが、
この時に球団代表になった三山秀昭氏は元々江川事件の時、
正力亨オーナーの秘書だった人物。
「空白の一日」を提案し、その事後処理を無難に行ったことで評価された人でした。
その後ナベツネオーナーに見出され、懐刀とまで言われていました。
その手段を選ばない強引な政治的手腕を巨人の改革のために期待され抜擢されたのです。
徳光さんの言うように公共物であるはずの球団を、
ナベツネさんたちは読売の私物と化していました。
その走狗のような人物が三山氏だったと言えるでしょう。
彼は読売の上層部に対しては非常に優秀な人物だったのでしょうが、
あまりに強引な手法は周りの反発を招くことになります。
江川を得たことによる巨人のチーム力アップは確かに大きいものでしたが、
江川事件によって失った巨人の権威やブランド力はさらに大きかったと思います。
原監督がフロントに反発したことは原監督にも非があると思います。
しかし、三山氏は「たかが選手」と言い切ったナベツネさんと同じように、
現場に対して上から目線だけで、リスペクトする気持ちがなかったのではないかと思います。
そういった人にGM的な役割が務まるはずがありません。




































































色々な意見がある中で私がもっとも素晴らしいと思ったのは森さんの意見でした。
少し抜粋してみます・・・

(前略)

『巨人がよければの独善性を捨てよ』

私が巨人に一番望むことは「巨人さえよかったらいい」という

独善性を捨てることである。

「どんなことをしようが、巨人が優勝すればファンは納得するからいい」というのは、

私はおごりだと思う。「とにかく、その年勝てばいい」という

場当たり的な補強のツケが、

いま回ってきているのは明らか。チームのバランスを考えず、

落合、清原、広沢、石井と、

一塁手ばかりをかき集めて失敗したのは場当たり補強の見本だった。

外国人獲得も同じことでヒルマン、ペドラザで失敗。

ペドラザなどだれが見てももう使えない投手。

それを取ってしまうのだから信じられない思いだった。

方針がはっきりしていて、適材適所に持ってくる補強なら、

ファンは1、2年勝てなくても納得して待ってくれる。

巨人はそういう補強をすべきなのだ。

それよりも根本は自分のところでしっかりと選手を育てることだ。

かつてヤンキースはFA選手を取りまくるなど大金をかけて大補強をしたが、

ちっとも勝てない時期があった。そこでフロントは頭を切り替え、

マイナーでしっかりと育てる、こちらに方向転換した。

それからジーター、ウィリアムス、ペティットらが育ってきた。

そして、トーレ監督に首を簡単に切らせずに任せてきた。

これがいまのヤンキースの強さの背景なのだ。

巨人も、もうこのプロ野球の基本に立ち返らないとダメだ。

工藤、桑田、清原、江藤と選手が高齢化しているのは結局、

自前で選手を育てられなかったツケなのだ。

来年1年はこの高齢化選手たちで戦えるかもしれないが、

再来年は一挙にすべてを失う危険性もある。

まず、この問題を真剣に考えるべきだ。

すぐに若手に切り替えるというのはムリだが、

トレードでうまく働いてベテランを欲しいチームを見つけてそこに送り出し、

見返りに若い選手を得る、こういうことを地道にやっていくべきだろう。

(後略)

森さんは西武の黄金時代の監督です。前任の広岡監督の時代からチームを引き継ぎ、
弱かった西武がどのように強くなったかを目の当たりに体感している人物だけに、
誰よりも言葉に重みがあります。
当時の西武は強引なドラフト戦略や、選手の囲い込みなど様々な問題もありましたが、
補強と選手育成のバランスのしっかりとしたチーム作りをしていたと思います。

森さんの予言は図らずも的中することになります。
この本の発刊された後も、小久保が来て、ローズやシコースキーが来ました。
相変わらず他からの補強に頼ったチームが続いたのです。
しかし、それでも巨人はAクラスがやっとで優勝できない。
そしてその後巨人は2005-2006年の連続Bクラスという
暗黒期に突入することになるのです。

先程の三山氏はその後、強引な手法が一場事件で白日なものとなり、
ナベツネオーナーと共に球団を離れることとなります。
三山氏は江川事件に続き一場事件の当事者になった訳で、
一度ならず二度までも、巨人のイメージダウンや
権威の失墜にかかわったことになります。

その三山氏の代わりに球団代表になったのが清武さんです。
清武さんは2004年の途中からですから、
巨人の球団代表としては異例の6年以上の長きに渡って、
球団代表を務めていることになります。
キーナット氏は回転ドアのように
2、3年で次々と変わるフロントに問題があると指摘していますが、
この点は清武さんの登場によって問題点が解決しています。
巨人は本当のプロのGMとして清武さんに期待したからでしょうか。
その清武さんの現在目指しているチーム方針とは、
森さんが提言したものにほぼ則していると思われます。

昔の本を振り返って、あれこれ批評を加えることを、
本当はやってはいけないことかもしれません。
結果の出た世界と出ていない世界では条件が全く違うからです。
しかし、こういった検証はチームや組織が混乱に陥った時、
人はどのように考えるものかということが分かりますし、
どうしてその後そういった行動に出たのかを探るヒントになります。

巨人において清武さんの球団改革は彼一人の思いつきではなく、
おそらく相当人数の提言を聞いた上で実行されたものだと思います。
その中にこの本で森さんが提言したような意見もあったのだと思います。
今の改革が必然の産物だったということが分かります。

この本は巻末で、なぜこの本を作ったかということを記して編集後記に代えています。
巨人という球界の盟主を自称する存在を通じて、
球界全体の問題点を浮き彫りにすることを目的とのことです。
最後に、この本は“渡辺オーナーに捧げる”とのことでした。



































































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