「カイの国」
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おかき
2009年11月11日 03:02 visibility85
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」
試合後、いつまでも甲府サポーターが歌う「マラニョン」コールを背中にそんな言葉を思い出した。横浜はハマナチオという強固な守備を武器にJ1に昇格したが、傲慢なクラブ運営の為にサポーターの心は離れていく一方で、そしてより強大な敵にその城を壊された時助けてくれる者はどこにもいなかった。
今年からその方針を転換し始めた横浜FCのフロントではあるが、それが実るのは春に撒いた籾が秋になって頭を垂れるよりももっと先になるだろう。一度離れた人々が、人身御供の様にクラブの石垣になってくれるには、相当の時間と労力が必要なのである。
その中にあって、ヨンデの存在というのはボランチというポジションの救世主であると共に、強かったあの時代の記憶と今の自分たちを固く結び付けてくれる存在でもある。誇りというのは、人を自然とクラブに引き寄せる。人間は誰しもが認められたいもの。そのよりどころが横浜にあるか否か。
ぼんやりと今節スタメンでプレーしているヨンデを眺めていると、開始3分いきなりゴールを挙げる。ロングボールを御給が落として、池元が中にパスしたのをダイレクトで振りぬいた。相手DFに当たるというラッキーな面はあったが、その積極性が導いたゴールだった。
そのゴールで横浜は躍動する。中盤は自由にポジションチェンジを繰り返して、三浦知がトップ下に入ってボールを捌き、この試合左SBに入った片山がスルスルと駆け上がってくる。池元は甲府の4-3-3の中盤の空いたスペースを縫う様に侵入する。高まる期待感。
だが、甲府も同様に藤田、マラニョン、金らが横浜の攻めあがって崩れた中盤を突く。八角やヨンデがマークに行っても数的不利で交わされて、シュートを許してしまう。リードはしているが、甲府に流れがあった。この日はいやに時間の流れるのが遅い。勝利に対する産みの苦しみとはまさにこの事か。
ただ、そこに不幸が大きな口を開けて待っていようとは。前半30分、御給のトラップミスしたボールを甲府・山本に奪われ、サイドでフリーで待っていたマラニョンがクロス。それを金がゴールに叩き込む。ミスからの失点という思ってもいない展開で、チームの雰囲気が悪くなり途端にゲームを作れなくなる。同点で後半に。
試合が動き出したのは横浜が須藤に変えて、三浦淳を投入してから。このお陰で横浜は左サイドにポイントが出来たが、逆に右サイドは甲府・マラニョンの速攻をモロに受ける形となった。三浦知が右MFに移動したのだが、後半は既に運動量なく追う事も途中で諦めてしまっており、チーム全体が守備に時間と体力を割く必要が出てきた。また、甲府にも「中盤を越えると付いてこれない相手の癖がある」と研究されており、守備陣の負担はグッと高まっていた。
樋口監督のサッカーは運動量がベースにあると思うが、結局彼をフル出場させた事はこの後の失点の遠因になっていた。
ディフェンスラインは下がり、その間隙を突かれたのが後半30分。左からの藤田のクロスにマラニョンが反応。八田は他の選手と競っていたが、田中が目の前でフリーでのヘディングを許してしまう。人数は揃っていた。それでも決められてしまうゴール。確かにあれは守備陣のミスだ。だが、徐々に体力を奪われていくまでの過程を監督も見過ごしてはいけなかった。
同点にするべく劉を投入したが、チームの意識は各自がバラバラで一つになっていなかった。同点にするという目標はある。だが、そこに向けての意識がまとまっていなかった。逆にロスタイムにカウンターから甲府・杉山に決められて1-3とされて万事休す。守備を固めて最後はカウンターというこの時間帯に一番必要なことをやってのけた甲府と、リードされているのにバックラインでボールを回さざるを得ない横浜。
甲斐の国は山の国。追うものが越えなければならない山がそこにあった。それを越えなければ甲府にはたどり着けない。同じ方向性、同じ意識の共有、そして一つになった組織。それはチームだけの話ではない。サポーターも、チームもクラブもだ。それをまだ果たせていないから、我々はどこよりも下位にいるのだろう。最下位という名の国に。
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