☆ハイリスクハイリターン
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鶴丸 深志’
2013年05月18日 19:12 visibility287
東京の西日暮里に東大合格者数31年連続日本一を誇る、超進学校の開成高校がある。
過去にマイヤキュウさまが記述していますが、開成高校野球部を題材にした『弱くても勝てます』という本が出版されている。某局の朝のワイドショー番組でも取り上げられていた。
開成高校野球部は、1947年(昭和22年)第29回夏の東京大会予選に初参加、残念ながら初戦(2回戦)で豊山中に7-17と大敗した。
予選初勝利は、1949年(昭和24年)第31回夏の東京大会予選で東工専付に15-3と圧勝であった。
予選通算成績は28勝66敗、2005年(平成17年)夏の東東京大会予選では見事にベスト16まで進出した。
頭脳派集団の集まりである開成高校野球部が題材ならば、高い偏差値を活かし相手チームを徹底的に分析したID野球で勝負するのかと思いきや、その必勝法は「ドサクサに紛れて勝つ」であった。
そもそも、開成高校野球部には下手な選手しかいない。さらに、練習時間は週に1回3時間だそうだ。開成高校野球部の伝統はエラーとまで言い切る。
野球のセオリーは、高いレベルのチーム同士が対戦する際に通用するもの。下手な開成高校が普通にやっていても勝てるわけがない。弱者はギャンブルを仕掛けるしかない。
開成高校野球部は、強者のようにはなれないと割り切って、今ある戦力で一番可能性がある戦略を見出した。
守備より打撃、サインはなし、送りバントもしない、隙をついてドサクサで大量点を取って一気に勝負を決めるという考えだ。
どんなに練習して上手くなってもエラーはする。1試合で各ポジションの選手が処理する打球は大体3~8個。そのうち猛烈な守備練習の成果が活かされるような難しい打球は1つあるかないか。そのために少ない練習時間を割く必要はない。
ポジションの基準は、投手は投げ方が安定している(勝負以前に相手に失礼にならないことを第一に考える)、内野手はそこそこ投げ方が安定している、外野手はそれ以外。
そして開成高校が採った弱者の戦略、それは打撃特化型のチームを作ること。1番から6番まで、できる限り強い打球を打てる選手を並べる。最も強い打者は2番。そして、三振を恐れずにひたすら強振する。一番チャンスがあるのは8番、9番からはじめるイニングで、彼らがうまいことヒットやフォアボールで出塁した場合。下位打線を抑えられなかったことで動揺する相手ピッチャーに1番が強振して長打、そして最強の2番打者が打つ。弱いチームに打たれたことにショックを受けている相手を逃さず、後続がとにかく振り抜いて連打を食らわせ大量点を取るイニングを作り、そのままドサクサに紛れて勝つ。
エラーは当たり前、「10点は取られる」という前提で「一気に15点取る」ために考えられた戦法である。
大量得点での勝ちもあれば、大差でのコールド負けもある。「ハイリスクハイリターン」が開成高校の野球といえよう。強豪校にとっては、少々やりにくい相手なのかもしれない。
そういえば、開成高校の夏の船出は大敗で始まり、初勝利も大勝であった。
最後に、三度の飯より理屈の大好きな開成高校らしい?監督の話の一部を。
グラウンドでやるのは『練習』ではない。『練習』という言葉は、同じことを繰り返して体得する、という意味です。しかしウチの場合は十分に繰り返す時間もないし、体得も待っていられません。それにそれぞれが繰り返すべき何かをつかんでいないわけですから、『練習』じゃダメなんです。
グランドではやるのは『実験と研究』です。グラウンドを練習ではなく、『実験の場』として考えるんです。あらかじめ各自が仮説を立てて、それぞれが検証する。結果が出たらそれをまたフィードバックして次の仮説を立てることに利用する。このサイクルを繰り返していくうちに、それぞれがコツをつかみ、1回コツが見つかれば、今度はそれを繰り返して体得する。そこで初めて『練習』と呼ぶにふさわしいことができるんです。1球ごとに実験する。やること自体は同じだが、取り組む考え方を変えるのである。確かに私も『練習』と聞くと漠然とした疲労感を覚えるが、『実験と研究』なら目的意識を感じ、新鮮に響く。
以上です。
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- 事務局に通報しました。
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