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ファンタジスタ幻想曲� −ヨハン・クライフ編−
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学
2007年07月14日 16:57 visibility1592
なんという皮肉だろう。
ヨハン・クライフ監督率いるバルセロナが
94年チャンピオンズリーグ決勝でACミランに0−4で敗れた時の話。
数奇なことに、74
年のW杯でクライフ自らが選手として、師匠ルイス・ミヘルス監督とともに体現した「トータルフットボール」と呼ばれた革新的な戦術が、後にACミランのアリゴ・サツキ監督によってイタリア式に深化した「ゾーンプレス」に変貌し、それをさらに守備的にして継承したファビオ・カペッロ監督の率いるミランに為す術もなく敗れたのだから。
私が初めてヨハン・クライフの存在を知ったのは、
92年のトヨタカップでバルセロナがサンパウロと対戦したときの、ベンチでサングラスをかけ、トレンチコートを着て、煙草を吹かしている監督の姿だった。
スポーツ選手(元だけど)が監督とはいえ、試合中に煙草を吸っているのがなんだか奇異で新鮮に思えた。
後で調べてみたら、試合中に煙草を吸うことについて指摘した記者にこう切り返していた。
「君たちは仕事をするときに煙草を吸うだろう?どうして私がそれをしてはいけないというんだ?」
う〜ん、なかなか頭いい人だなぁ、とその時思ったものだ。
ヨハン・クライフはオランダが生んだ唯一無二の天才フットボーラー。
幼いときはやせっぽちでコーナーキックを蹴ってもゴール前まで届かないのがコンプレックスだった。12歳で父を亡くし気丈な母に支えられてサッカーを続けた苦労人だったりする。
彼が一躍世に出たのは
74年のW杯西ドイツ大会。
選手が目まぐるしくポジションチェンジを繰り返し全員で攻撃し全員で守備に戻る、「トータルフットボール」という戦術は、攻撃と守備の分業が当たり前だった当時のサッカー界にとって革命的だった。その中心にいて主に攻撃における全権を掌握していたのがヨハンクライフだった。
縦横無尽に顔を出し、ラストパスからフィニッシュまで完璧にこなすオールマイティープレーヤー。
女子サッカー好きな私なんかはベレーザの澤がこれに近いなあと思ってしまうのだけど。
ブラジル戦のジャンピングボレーの印象から「空飛ぶオランダ人」とか、イエスキリストと同じイニシャル(J.C)なので「ジーザス」なんて呼ばれたりしちゃうのが凄い。
軸足の後ろを通して切り返すフェイント「クライフターン」は今ではジダンの「マルセイユルーレット」と並んで固有名詞のついたスタンダードなプレーになっている。
三度も欧州最優秀選手(バロンドール)に輝いた偉大な選手だった。
曲:twisted sister「heroes are hard to find」
残念ながら私には彼の現役時代のプレーの記憶がない。
だからここで彼について語るなんておこがましいとは思ったのだけれど、後に雑誌や本、ビデオなどで彼について知れば知るほど、彼ほど私の考える「ファンタジスタ」に当てはまる人はいないんじゃないかなあ、と思うようになった。
彼の言葉にこんなのがある。
「月並みなやり方をするくらいなら、自分のアイデアと共に心中した方がマシだ」
ファンタジスタは他人に教わるのではなく、自分の頭で考えてそれを実行に移す。
それだけ自分に自信を持っていて、ときには自信家とか傲慢とか謗りを受けるのだけれど、人と違う事をするのだからよっぽど勇気がなければできない。そんな勇気を私は素直に尊敬する。
冒頭のチャンピオンズリーグの決勝でACミランに大敗したクライフ監督は、かつて自らが体現した「ゾーンプレス」を破る戦術を、皮肉なことにもクライフ監督自身が考案し実践した。
それは「ボールを走らせろ、ボールは疲れない」という彼の言葉に現れている。
ピッチに広く選手を配置して速くて正確なショートパスないしミドルパスを通しながら全体を前に押し進めていく。そのパスサッカーの中心にボランチの位置からゲームを組み立てる選手を置く。
このパスサッカーを遂行するためにはパスの能力だけではなく、それを止めるトラップの技術がものを言う。サッカーにおけるテクニックの有無はトラップに如実に現れる。クライフはことあるごとにテクニックの重要性を説くのはこのためだ。
プレスをかける守備側選手はボールを追っかけるのに疲れ切ってしまい、そこに攻撃側が付け入る風穴が明く。
考えてみればこのサッカー、今日のバルセロナのサッカーに、ひいてはモダンフットボールを志向する全てのチーム(アーセナルもそうだし、オシムジャパンもそうだ)のサッカーに脈々と受け継がれているではないか。
他人に教わるのではなく、自分の頭で創意工夫を重ねて新たな戦術を生み出したヨハンクライフという人は、私のいうファンタジスタの定義にぴったり当てはまるなあと、つくづく思った。
それと最後にもう一つだけ、私の好きなクライフの名言。
「美しく敗れる事を恥と思うな、無様に勝つことを恥と思え」
この言葉を、先日カナダでチェコに敗れた
U-20の若き勇士達に贈りたい。
決して負けたからと言ってやり方を変える必要はない。君たちのサッカーは間違ってはいないのだから。
そして人気に陰りが見えるJリーグの各クラブや日本代表に、彼らの見せた胸の透くような攻撃サッカーを見習ってもらいたい。
目先の勝利にこだわるあまり、つまらない現実的なサッカーをしてファンを失うよりも、そういうサッカーをすれば、たとえ敗れたとしても結果的には多くの人の心を掴み、単なる「ファン」ではなく逆境でも支えてくれる「サポーター」の多い、最終的な勝者になれるはずだと、クライフのこの言葉は教えてくれているように思える。
晩年のクライフ。っていうと亡くなったみたいですけどまだ生きてます。心臓バイパス手術から生還。サッカー界のご意見番として今でも信奉者が多い。
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