読売新聞のドラフトに関する社説に対して思うこと

  • 舎人
    2012年10月30日 01:11 visibility1683
読売新聞の27日の社説はドラフトについてでしたが、この中で、選手が球団を選ぶ権利がないと、人材が流出するという話をしています。この社説で語られているロジックは間違ってはいないと思いますし、筋は通っていると思います。しかし、私には果たしてそれが本当の問題なのかという思いがします。



プロ野球改革 選手の希望かなうドラフトに(10月27日付・読売社説)

 プロ野球ドラフト(新人選手選択)会議は、今年も様々なドラマを生んだ。12球団に指名された選手たちが、プロ野球を背負って立つ存在に成長することを願いたい。

 巨人入りを望んでいた東海大の菅野智之投手は、念願がかなった。昨年、日本ハムの1位指名を拒否し、浪人生活を送った。「心が折れそうな時もあったが、すべて報われた気がします」。喜びの言葉には実感がこもっていた。

 伸び盛りの時期に実戦から遠ざかった影響は、決して小さくないだろう。そのハンデを乗り越え、ファンの期待に応える投球を見せてもらいたい。

 菅野投手のケースは希望球団に入りたくても入れないドラフト制度の問題点を浮き彫りにした。

 ドラフトの目玉と言われた花巻東高(岩手)の大谷翔平投手は、日本ハムの1位指名を受けた。米大リーグへの挑戦を事前に表明したが、日本ハムは「その年の一番いい選手を」という方針の下、指名に踏み切った。

 才能豊かな若者が海外でチャレンジするのは、素晴らしいことだ。大谷投手の世代は、イチロー選手らが大リーグで活躍する姿を少年期に見て育った。「自分もあの舞台で」との思いを抱くのは、自然なことなのかもしれない。

 大リーグで日本選手の評価が高まり、米球団も日本を有望な新人の発掘先として重視している。

 だが、優れた選手の海外流出が続けば、日本のプロ野球の地盤沈下は避けられまい。

 ドラフト候補選手の獲得に関し、日米球界間には互いに獲得を自粛する紳士協定しかなく、明文化されたルールは存在しない。

 米球団は獲得したい日本選手と自由に交渉が可能だ。ドラフトで交渉権を獲得しない限り選手と折衝できない国内球団よりも、有利な立場にある。日米の球団が対等な条件で獲得を競えるルールが必要な時代になったと言える。

 大谷投手は今後、日本ハムに指名されたことに拘束されず、複数の米球団との交渉を進められる。自分の意思で球団を選ぶことができるわけだ。

 これに対し、国内のドラフト制度は、選手が球団を選択できる仕組みにはなっていない。

 有望選手が国内でプレーしたいと思うように、プロ野球をより魅力的なものにしなければならない。それと並行して、選手の希望が、ある程度は反映される制度へと改善していくことが求められているのではないだろうか。

(2012年10月27日01時29分  読売新聞)






 

「有望選手の海外流出が続けば日本のプロ野球の地盤沈下はさけられまい」確かにそうだと思います。アマ選手たちがいきなり海外でプレーするようになったとしたら、国内のリーグはどんどん寂しいものになってしまう。韓国や台湾でもそのようなことがあったと聞きます。しかし、一方ではプロの選手たちが毎年のようにどんどんFAやポスティングで海外へ移籍しています。アマからいきなり海外に行くことがいけなくて、国内リーグに在籍したことがあれば移籍は問題にならないっておかしな話です。どちらの選手が流出しても日本のプロ野球は‘地盤沈下’を起こすのではないか?それなのに、なぜアマからいきなり海外へ行くことのみが問題視されるのかが私には分かりません。まるで中間マージンを搾取できなくなることを恐れたブローカーが、生産者が販売元といきなり取引することを問題視しているように思えてきます。

 

この問題の本質は選手たちにとって日本のプロ野球が魅力的でなくなっていることではないかと思います。つまり選手たちのキャリアの最終目標は日本のプロ野球ではなく、メジャーでプレーすることになってきているのです。この構造を変えない限り、日本のプロ野球は徐々に地盤沈下をし、寂しいものになって行くことでしょう。この社説のように、アマ選手に行きたい球団を選べるようにしても、育ったらさっさとメジャーに行ってしまうのでは、全く問題の本質を解決したことにならないと思います。

 

それどころか、今のままで自由獲得競争が復活したら裏金が禁止されているために、ポスティングを認めている球団が圧倒的に有利でしょう。数年後にメジャー移籍OKの口説き文句でアマ選手たちと交渉されたら、巨人のようにポスティングを禁止している球団は不利だと思います。もうアマ選手にとって目指すところは巨人ではなく、メジャーなのです。そのことを踏まえないと、迂闊なことは言っていけません。

 

ダルビッシュは元々、メジャーに移籍することを否定していました。しかし、自分のモチベーションを維持できないという理由で移籍を決意したのでした。トップアマが次々とメジャーに移籍してレベルダウンして行く日本のプロ野球ではアスリートとしての向上心を満たすことが出来なくなったということでしょう。このことが最も問題の核心ではないかと思います。彼らの流出を防ぐためには、日本のプロ野球にいても彼らトッププロの向上心を満たし、モチベーションを維持できるようにしなくてはいけません。

 

私は先日の大谷のことに触れた日記でも話した通り、日本にいてもメジャーにいても全ての選手たちが目標とする共通の象徴が必要ではないかと思っています。選手たちはその象徴のためにプレーしていれば、国内だろうと、国外だろうと向上心を掻き立てられ、モチベーションを維持できる。そういった新たな価値観の創造が日本のプロ野球が地盤沈下しない唯一の方法ではないかと思うのです。

 

そして、その象徴を普通に考えたとしたらWBCなどの国際大会の日本代表ということになります。色々と意見が出ていますが、次の第3回大会で何が何でも3連覇して、アメリカに恥をかかせないといけません。そうすればアメリカもいよいよ本気になり、日本ではさらに前回大会同様に大いに盛り上がることでしょう。そうやって代表というものの地位を高めていく地道な運動をして行くべきだと思います。そのように全ての目的が代表のためということになったとしたら、メジャー挑戦や移籍は人材流出ということにはならず、ただの留学ということになると思います。

 


かつて、松井秀喜がヤンキースに移籍した時、巨人はヤンキースと提携したり、ヤンキースタジアムに読売新聞の広告を出したり、長嶋さんにヤンキースの帽子をかぶらせたりして、あたかも巨人とヤンキースが縁続きであるような演出をしました。今考えるとあれはいったい何だったのかと思えてきますが、あの松井流出の時に、そんな茶番をしていないで、本気で日本球界の生き残る道を探っておくべきだったのです。米球界は日本球界を自分たちのファームとして迎え入れることはあったとしても、同じステージだとなど思っていません。それを何とかして同じステージだと思い知らせるように巨人は球界をリードして行かないといけないと思います。それは巨人軍の憲章でもある正力松太郎の遺訓でもあるのです。

 

巨人軍は常に強くあれ

巨人軍は常に紳士たれ

巨人軍はアメリカ野球に追いつけそして追い越せ

 

正力さんは巨人軍の創設者であると同時にプロ野球の父でもあると言われています。ここに書かれている‘巨人軍’とはイコール日本球界のことではないでしょうか。巨人はヤンキースのマイナーのようなことをしている場合ではない。親会社たる読売新聞の社説も、そういった被害者めいたドメステックなレベルの話ではなく、もっと大きな球界の代表としての意見を展開しなくてはいけないと私は思います。

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