U-31 完全版 上・下 綱本将也/吉原基貴

  • miyashu
    2008年12月09日 22:54 visibility505


「ボールは勝ちたい気持ちが強い方に転がってくる。」
とは、鈴木慎吾選手のよく言う言葉です。

当然、選手はみんな勝ちたい気持ちを持って戦っている。しかも、監督が満を持してピッチに送り出した選手なのだからなおさらのことだ。
それでも、やはり試合が始まってみると、気持ちの強い選手、チームというのが判然としてわかる。

これはサッカーというスポーツのモチベーションのもっていきかたがいかに難しいかを物語っている。
それは選手自身のコンディション、ピッチ上でのコミュニケーション、あるいはサポーターのコールひとつであがったりもさがったりもする。

1試合だけ見ても、モチベーションの維持、高揚がいかに難しいことか。
それをシーズン通して維持していく。
または代表とクラブを行き来しながら調整していく。
さらにトップクラスの選手ともなれば、何年もフィジカル、メンタルのレベルアップを続けていくのだ。

これは生半可なものではない。

かつてブラジルを撃破し、「マイアミの奇跡」と呼ばれたアトランタ五輪代表。
名声をほしいままにし、代表まで上り詰めた河野敦彦。(モデルは誰でしょう?)
しかし、浮かれた生活の中でいつのまにか、プレーに輝きを失い、何かを見失ってしまい、ついには所属の東京ヴィクトリーから戦力外を通告される。
元所属のジェム市原から、集客のための客寄せパンダとして拾ってもらい、再起をかけての挑戦が始まる。

って展開のストーリーです。

原作者綱本さんは、千葉サポだけあって、サポーター目線での描写もリアルだし、選手や選手をとりまくいろんな人たちも丁寧に描かれています。
読んでいくうちに、サッカーって選手だけじゃないんだと実感されます。

一度輝きを失った選手が、ほとんどもとのレベルまであがって来れないのは、技術やフィジカルの問題よりも、メンタルとタイミング。
だから年齢では決してない。
あんなに若いのに、なんてのはまったく関係ない。

特に、タイミングが重要。
藤堂との勝負に敗れ、メンタルの落ちてしまった河野に、SCベオグラードでの海外移籍だった。
このまま市原にいても戦えない選手に、このタイミングでの移籍を監督が用意してくれなかったら、河野はこのまま終わってしまったろう。

命を賭してまでも、サッカー選手としての至福の世界に足を踏み入れた藤堂。
アトランタ五輪で河野の後塵を拝した悔しさがなければ、ここまで来ることもなかったろう。それも、ひとつのタイミングだ。

そして、タイミングは選手を変える。
それはプレースタイルだったり、リーダシップだったり、フィジカルやテクニックの成長だったり。

トリニータの鈴木慎吾選手は、移籍によってトリニータにとって大きなものをもたらしてくれたが、慎吾選手自身も大きなものをもらっている。
新潟では見せなかったリーダーシップを大分では存分に発揮してチームを引っ張っているのだ。

アトランタ世代をリアルで体験した人にとっては、この選手のモデルは誰かと考えたり、あれからのアトランタ世代の選手のその後と重ねてみるのもおもしろい。

さらに、村上龍の「悪魔のパス 天使のゴール」と重ねて読むともっと広がりや深まりが出てきておすすめです。
どっちにも中田ヒデがモデルの人物が出てくるんですが(笑)

それと河野、藤堂を支える佳奈やアーシアという女性の存在も重要ですね。

綱本さん原作の「ジャイアントキリング」とはまた違ったテイストの作品です。


【写真:08.11.9の大分VS千葉のスコア入りサインが入ってます】





















































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