我的愛球史 第10話 怪物くんの引退


 第9話を書き終えて、ちょっと反省しました。

 お世話になった学習塾の塾長さんや、京大の沢田選手はもっと濃く書くべきだったなあ・・・野球エッセイ的に掘り下げていくと内容ある話だったのに、と。

 一つの記事にあまりたくさんの話題を盛り込むのは記事の密度を薄めて構成をバラバラにしてしまう。

 今日から一つの記事にできるだけ一つの話題にして、1年1年の野球の思い出を何話になっても丹念に追いかけてみることにします。

 完結するのに何年かかっても、野球を見てきて感動した記憶はここに残しておきたい。

 それが「愛球史」。

 と、いうわけで、今日は江川卓選手にスポットをあててみたいと思います。

 1987年9月20日。

 場所は広島市民球場。

 巨人対広島戦は9回表を終わって2対1で巨人がリード。

 このままゲームが終われば巨人に優勝マジックが点灯するという大一番でした。

 9回裏のマウンドには巨人先発の江川卓選手がいまだ投げ続けていました。

 ランナーに高橋慶彦選手を置いて、対峙するバッターは小早川毅彦選手。小早川選手は7回裏に江川選手からソロホームランを放ち広島に唯一の得点をもたらしていました。

 カウント2−2。

 江川選手渾身のストレート。

 小早川選手のバット一閃・・・ボールはカープファンの待つライトスタンドへ。

 サヨナラ2ラン・・・。崩れ落ちる江川選手・・・。

 この場面は、あまりに有名なシーンなのですが、こうして振りかえってみると、小早川選手にとってあのサヨナラ2ランはこの日2本目のホームランだったのですね。

 しかし、7回裏のホームランはカーブを打ったものだったそうです。

 江川選手は、この日、絶対の自信を持っておられたストレートを打たれたことで引退を決意された、とされています。
 
 著書でもそう理解されるように書いておられるから(「ユニフォームを脱ぐ決断をした瞬間だった」と)間違いないでしょう。

 ただ、著書の中では、もっと前から引退について考えておられ、それを周囲に打ち明けておられたことについて詳しく述べておられます。

 と、なるとあのホームランがなくても江川選手は1987年を最後にユニフォームを脱いでおられたことに変りは無かったかも知れません。

 全盛期でユニフォームを脱いだドジャーズのサンディー・コーファックスのように。

 しかし、最後にああいう野球ファンの記憶に残るドラマを演じてしまうのが江川卓という人の宿命だったのか・・・。

 僕はほとんど江川選手の全盛期を知りませんが・・・選抜大会で奪三振の大会記録を作りながら決勝に進めなかったり、雨にたたられて延長戦押し出し四球で敗退したりと頂点に届かなかった高校時代。

 慶應受験失敗で進んだ法政大学4年生のドラフトでクラウンライターから1位指名。入団拒否でアメリカ留学へ。

 翌年1978年11月21日のいわゆる「空白の一日」。巨人と電撃契約。

 その年のドラフト会議では阪神が交渉権を獲得。結局、巨人へは小林繁投手とのトレードで入団。

 その後9年間、巨人のエースとして屋台骨を支えた80年代を代表する投手。

 本当に激動の野球人生だったと思います。

 僕は「空白の一日」当時3歳だったので、まったく記憶にありませんが、資料を読むと、あの事件は本当に信じられない事件ですね。

 ただ、当時23歳でアメリカに留学していた江川選手ご本人が全く知らないところでシナリオが進んでおり、ドラフト前に突然呼び出されて帰国したら「今日21日は何処の球団とも契約できるんだ」と言われたら驚きは大変なものだったでしょう。

 ご自身、どんな批判を浴び、どんな困難な野球人生がこの先待っているかも想像できたことでしょう。

 それを飲み込んでの契約ではなかったでしょうか(結局、巨人とのそれは無効になり、阪神と契約。巨人へはトレードという形で入団になるのですが)。

 才能に恵まれながら、つくづく苦難の道を辿った方だったと思います。

 プロ野球選手の引退会見って、結構記憶に残りますね。

 江川選手の会見も覚えています。

 僕の記憶に残っているのは、やはり「中国鍼」のくだりと、プロ生活で一番嬉しかったことを聞かれ少し硬い表情で「ピッチャーフライを捕って日本一になった瞬間」と答えられたことかな。

 それにしても江川さんはいつ監督をされるんだろう・・・。

 
 

 

 

 

 

 

 




























































































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