僕の甲子園物語 第19話


 こうして、S君とK高校3年生の高校野球は終わった。

 近江高校との決勝戦の後、しばらくして先発したT山君らは火事の消火作業に協力して地元の新聞に載った。

 その勇気は大いに讃えられた。

 近江高校の小熊投手は甲子園では堂々としたピッチングを見せた。

 僕には皇子山球場で見たときとは別の投手に見えた。

 こうして夏が過ぎていった。

 秋の県大会、K高校は準々決勝で近江高校を4−3で破った。

 K高校が近江に公式戦で勝つのは初めてのことだった。

 その勢いのまま県大会優勝。

 近畿大会でも西城陽高校を倒して1勝を挙げた。

 K合君とI川君という投打の柱がしっかりし、他にも強肩捕手のK田君などの実力ある選手の揃ったK高校は3年連続のセンバツに選ばれた。

 そしてわが「教え子」S君は、雑誌ベースボールクリニックの「高校生のためのピッチングクリニック」というムックに1頁載った。

 元阪神の湯舟俊郎さんがS君の投球を解説して下さっていた。

 僕は単純に「すごい」と思い、S君にメールした。すると

「あそこに載っているのは僕の悪いところばかりです。僕はピッチャーとしてまだまだということですよ」

 とS君から返信がきた。

 きっとS君は湯舟さんから指摘された欠点を克服し、さらに良いピッチャーになると思った。

 また春がやってきた。

 K高校はセンバツで旋風を起こした。

 大会初日の第2試合で東北高校に3−2で逆転勝利。

 K合投手9奪三振。

 

 続く2回戦では大会屈指の注目選手土屋投手(現北海道日本ハムファイターズ)を擁する横浜高校との対戦だった。

 K合君は試合開始直後の初球に滅多に投げないナックルボールを投じた。

 これだけで調子が狂ったわけではないだろうが、横浜打線はK合君のピッチングの前にその破壊力を封じ込まれる。

 そして、I川君のセンバツ通算600号ホームランが飛び出すなどK高校打線は6点をもぎ取り、終わってみれば6−2。

 K高校は「優勝候補」と目された2校を連破した。

 「魂のこもったゲームを展開している」

 普段は厳しいコメントの載るK高校M監督も選手をそう讃えた。

 そして、ベスト8をかけた長野日大戦当日の新聞。

 「北大津快進撃 OB支え」

 という見出しが目に入った。

 そして、そのOBとは・・・S君のことだった。

 S君は監督の依頼に応えて、「強敵に立ち向かう後輩のためになれば」と、後輩のため打撃投手を務めていたのだった。

 4月から進学する大学の練習の合間に5度ほどシート打撃に登板。

 横浜戦を控えた前日には、自らの大学での春のシーズンのベンチ入りをかけたテスト登板より後輩の練習を優先し、連日100球以上を徹底的に後輩に打ち込ませた・・・と記事にはあった。

「テスト登板は今後もチャンスがあるが、後輩には今しかない」

 S君の心情を語った言葉が紹介されていた。

 この記事の載った、S君の投球フォームを正面からとらえた写真は僕の宝物になった。

 K高校は善戦むなしく長野日大に0−2で惜敗した。

 こうしてS君の高校野球も本当の終わりを迎えた。

 それは、僕にとっての「甲子園物語」の終わりでもあった。

 そして今・・・。

 

(写真と記事は関係ありません)




 




























































































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