僕の甲子園物語 第18話


 薄曇の空の下、K高校と近江高校の決勝戦が始まった。

 ほぼ満員のスタンド・・・プレイボールの前、スタンドで思いがけない懐かしい人に出逢った。

 本当に甲子園をかけた県予選の決勝は、地元の人たちにとって大イベントだということを再認識した。

 さて、近江高校の先発は小熊投手(現中日ドラゴンズ)。

 この日が公式戦初先発である・・・って大丈夫か?!と思うが、この試合を見ている時はそんなことは知らなかった。

 ただ「ぎこちないフォームの2年生が投げるなあ」と思ったぐらいだ。

 正直、1年後にドラフト指名されるぐらいすごい投手という雰囲気じゃなかった。

 それは、観客席からでも分かるぐらい、彼が緊張していたからだと思う。

 試合は、K高校先頭打者M里選手のいきなりの右越え3塁打で始まった。

「ほらみろ、今日のK高校は余裕の大勝だぞ。さて、初回で何点入るかな・・・」

 僕は頬が緩んだ。

 しかし、この回1点どまり。

 意外だった。でも

「まあ、いいや。小熊投手からならこの先、何点でも取れる・・・」

 失礼にも僕はそう思っていた。

 その裏、K高校の先発投手T山君は1点を失い、試合は振り出しに戻った。

 T山君は連投になる。

 初回からT山君が本調子でないことはスタンドで見ているみんなが分かったはずだ。

 制球が定まらない。

 球が上ずっているように思えた。

 初回だったかどうか忘れたが、近江高校の選手の顔にデッドボールが行ってしまったことまであった(正確には分からないが、僕には顔に当ったように見えた)。

 球場の空気が凍りついたように思った。

 一瞬の沈黙の後、容赦ない声が近江の応援席からT山投手に浴びせられた。

 「どこ投げとるんじゃ!」

 応援している選手の顔に死球。そりゃ心配だ。野次る人の気持は理解できるが、僕が同じ野次を浴びたらマウンド上でかなり凹んだだろう・・・。もちろんT山投手が僕と同じ程度のメンタルしか持っていないとは全く思っていないが・・・。

 運命の4回裏がやってきた。

 1死1塁までは普通に試合が進んでいた。

 ここで内野安打。

 そこから野選に失策で失点が始まり・・・10安打10失点。

 もちろん途中で投手はT山君からK合君に交代したが、僕も何がどうなったか記憶を失ってしまうほどK高校にとっては悪夢のイニングになった。

 辛うじて、K合君がピッチャー前に上った小さなフライを取ろうと飛び込んで取れなかった映像が浮かぶぐらいだ。

 今、スコアを見ると

 K 1 0 0 0 0 0 0 0 2=3
近江1 0 0 10 1 0 0 0 X=12

 となっている。

 あまりに重い4回裏だった。

 小熊投手は見事だが、K高校も最後3イニングは0にピシャリと抑えている。

 これはS君のピッチングによるものだ。

 けがで外野に回っていた本来の正捕手Y口君とバッテリーを組んで重ねた0が三つ。

 それと最終回の2点の反撃がK高校の見せた誇りと意地だった。

 いや、意地と言ってはだめだろう。

 最後まで希望を持って試合を全うしたのだから。

 残塁11は近江を上回る。実に惜しまれた。

 こうして、S君とK高校3年生の高校野球は終わった。

 でも、・・・S君の高校野球にはもうちょっとだけ、最後にドラマがまっていたのだ・・・。

(写真と記事は関係ありません)

 

 
 





























































































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