僕の甲子園物語 第5話
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こじっく
2010年05月10日 19:20 visibility128
こうして僕はS君の家庭教師を辞し、就職した。
S君は中学3年生になった。
それからもメールでS君のチームの戦績などを聞いていた。
夏に全国大会出場が決まった時は、S君に
「見に行っていい?」
と聞いたが、
「遠いですから、また結果報告しますよ」
とメールが帰ってきた。
それから僕も仕事が忙しくなった・・・というか、「社会人」というものに馴染めず、野球どころではない泥沼の日々を送っていた。しかし、今思えば僕の周りの職場の先輩方は僕のせいで泥沼に引きずり込まれていたことになる。
それでもS君からお正月に年賀状が来た。
「K高校に行きます」
K高校は前年夏の甲子園に出場し、プロ野球選手も輩出した県内の有力校である。いい高校を
選んだね、S君。心からそう思った。
僕は3月の終わりに、S君に入学祝のバットを贈った。
このバットを買う時、ずいぶん悩んだ。
やっぱり高校野球だから金属バットを買うべきだろうか?しかし、金属バットでも、アベレージヒッタータイプとかスラッガータイプとかいろいろあるよな。S君はどれを使っているんだろ?もしS君に合ったバットじゃなかったら使えないかもな・・・。
悩んだ挙句、ナイキの木製バットを買った。
「飾ってもらったら、それでいいや。」
近所のコンビニに持っていって、宅急便で送った。こんな長い荷物送るの初めてだった。誰が見てもバットと一目で分かる荷物になった。
翌日、S君からメールが来た。
「素振りで使います」
そうか、素振りしてくれるのか・・・。よかった。
こうしてS君はK高校に入学した。
そして4月から登板した。
公式戦に!である。県大会の準決勝だっただろうか。
ちょっと、すごい!S君、そんなにすごいピッチャーだったんだ。
新聞には監督の
「試合は負けたが1年生投手に使える目処が立った」
とのコメントが載った。
僕は周りのちょっとでも野球を好きと思ってくれているような人には自慢して回った。
「この新聞のコメントに出てるピッチャーね、僕の家庭教師の教え子なんですよ」
・・・結局、僕はこういうことがしたかったのだろうか?今思うと恥ずかしいが、その時は本当に本当に嬉しかった。
僕は夏の大会を心待ちにした。
しかし、S君の初めての夏の大会は、結果から書くと厳しいものになった。
1回戦敗退である。
S君はリリーフで投げ、打点も記録したがチームは敗れた。
そして、新聞の写真にがっくりうなだれたS君の姿が映っていた。
厳しい現実だった。
しかし、この悔しさがK高の秋の飛躍につながるとはこの時誰も知る由がなかったのだった・・・。
(写真と記事は関係ありません)
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